2018 Fiscal Year Research-status Report
Pastoral Care and English Constitutional Idealism of Robert Grosseteste
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18K01053
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朝治 啓三 関西大学, 文学部, 教授 (70151024)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | グロステスト / 世俗権と教権 / フランシスカン / シモン・ド・モンフォール / ヘンリ3世 / インノケンティウス4世 / ネポティズム / 司教の教会巡察 |
Outline of Annual Research Achievements |
西欧中世における世俗支配権力と教会の権威との関係を研究する大きなテーマの中で、13世前半のリンカン司教ロバート・グロステストの国制観を、彼が残した書簡を史料として研究するのが、本研究の主題である。書簡そのものは19世紀に研究、刊行されているが、その後の新発見史料を加えて、最近新しく書簡集が刊行された。またその底本とされた資料以外のマニュスクリプトの所在も突き止められており、大英図書館の他、オクスフォード、ケムブリッジ両大学のカレッジ図書館数か所にその所蔵を確認した。 今年度はこのうち大英図書館とオクスフォードのエクセタ・カレッジを訪れ、そこが所蔵するマニュスクリプトを転写した。内容は1253年にグロステストがリヨンにいた教皇インノケンティウス4世に対して行った、ネポティズム、司教巡察、巡察時の接待などに関する職権乱用をただす声明と、グロステスト自身の教会と王権の関係に関する意見の陳述である。この論点についてはすでに先行研究が欧米の学界にあり、それらを検討しつつ、本研究では1253年当時のイングランド国制をめぐる政治事件を背景として、個々の事件を検討して、スコラ神学者グロステストが日々の事件の中で、カトリック神学における世俗権と教権との関係をどのように構想していたのかを探り出そうとする。今年度はこの論点に関する先行研究を検討し、論文として公刊した。 グロステストは13世紀イングランドの聖職者全体に大きな神学的影響をもつ人物であり、その構想を継承する著名司教も多い。シモン・ド・モンフォールの乱で知られる1258年からの国制改革にも影響を与え、俗人の国制観を視野に入れていたことは明白である。国制と神学の両方を視野に入れた歴史像を描いた研究者であるロンドン大学のD.カーペンター教授を日本へ招聘し、東大と関西大学で講演して頂いた。その成果を翻訳と解説という形で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の本研究における最大の成果は、ロンドン大学からディヴィッド・カーペンター教授を招聘し、ロバート・グロステストとマグナ・カルタに関する講演を開催できたことである。招聘目的は、本研究の計画が国際水準に適合するか否かの判定を委嘱する事である。教授は1215年のマグナ・カルタの歴史的意義を講演されたのち、グロステストが1258年の国制改革運動に影響を与えた事例の先行例として、マグナ・カルタ成立時におけるカンタベリ大司教のラングトンの国制への関与の例を示された。大司教が国王ジョンにも、彼に敵対した諸侯たちにも味方しなかったが、1225年の4度目の公布時に違反者を破門すると宣言して国制の確定に努めた点を強調され、大司教と、世俗権力者としての国王との連携関係の13世紀的状況を考慮すべしとの助言を付けて、本研究計画を国際水準に見合うものと評価された。グロステストはラングトンがパリに亡命した際、同行し、1235年頃にリンカン司教となって以後、グロステストは世俗権の独走を監視し、国王にも王弟にも、シモン・ド・モンフォールにも書簡を送り、フランシスカンとしての神学観を説いた。 本研究では彼の書簡を転写、解読し、先行研究の解釈を参照しながら、彼の国制観と、当時の国制に関する世俗権力者・国王や諸侯の構想と比較するという方法で、司教の国制観を明確にする計画である。 今年度の本研究の第2の成果は、ロンドンとオクスフォードでの史料転写である。初年度にはグロステストの書簡の写本を手に入れ、それに関する先行研究を渉猟することであり、それは予定通り進行した。先行研究者であるソフィー・アムブラーの説明は殆どが刊行史料に基づいて行われている。そのままで正確なのか否かを確認することも、今後の研究の土台となるので、必須の作業であり、今年度はその研究の第1段階としての作業を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はオクスフォードのマートン・カレッジ、ケムブリッジの大学付属図書館所蔵のグロステスト書簡を転写する。主として1253年のリヨンでのグロステストの書簡を史料とするので、それらに関する欧米の先行研究が対象とした、すべての書簡や関連資料をパリ国立図書館で転写する。 国王ヘンリ3世の国制観と、彼に対抗した諸侯団体の国制観とを比較する。そのうち重要な論点は、1263年以後のシモン・ド・モンフォールが国政改革の主導権を掌握した際に、国制を構想する際にグロステストの神学観をどのように参照し、取り入れて、独自の国制を考えたのかであり、史料に基づいてを先行研究の歴史像を検証する。これまでの欧米の研究では、パウイクに典型的にみられるように、ヘンリ3世を牧歌的な国王主義者とみなしたり、シモンをすぐ暴力に訴える凶暴な政治画策者とみなしていたが、本研究の見通しでは、ヘンリはアンジュー家領の回復と、西欧世界におけるアンジュー帝国の占める役割の拡大を目指す、積極的な政策を持っていたとみなし得ることが実証され得る。シモンは国制を王家に無条件に委ねるのではなく、諸侯や都市、州騎士らの協力のもとに決定され得ることを国制化しようとしていた政治構想の実現者とみなし得ることを実証できるであろう。 グロステストは1253年に死んでいるので、その後の世俗国制への影響がいかなるルートで及んだのかも重要論点である。彼の同時代のフランシスカンであるアダム・マーシュの書簡が史料として刊行されており、これを使用して、53年以後のグロステスト思想の国制への影響を調査する。グロステストの自然観についての先行研究は既に存在するが、国制観についての研究は最近の新動向である。それらを網羅的に使用して、国際水準に見合う実証を行う。
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Research Products
(5 results)