2019 Fiscal Year Research-status Report
Pastoral Care and English Constitutional Idealism of Robert Grosseteste
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18K01053
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朝治 啓三 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70151024)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | グロステスト / リンカン司教 / ヘンリ3世 / Gravamina / インノケンティウス3世 / 第4回ラテラン公会議 / インノケンティウス4世 / ホスキン |
Outline of Annual Research Achievements |
1253年1月にリンカン司教ロバート・グロステストをはじめとするイングランド司教たちの教会会議が、国王ヘンリ3世の対教会政策について一連の不満を述べた。その内容を分析し、抗議の歴史的意義を解明した。その結果を2019年7月に関西中世史研究会で報告し、2020年3月に『関西大学文学論集』69-4に論文として刊行した。さらにホスキンの近著を『西洋中世研究』11号に紹介した。 このテーマについては従来は国制史研究者が、司教たちが教会領や推挙権などの世俗的特権を確保するために、国王や伯といった世俗権力者に戦いを挑み、結果的に敗れたという評価を下していた。これに準じて法制史研究者が、教会裁判権と世俗領主の裁判権とが管轄する事例をめぐって、境界争いをしていたという説明を行ってきた。 ところが最近ホスキンが、神学研究を採用して新たな見解を提示した。それによれば、教皇インノケンティウス3世の第4回ラテラン公会議の決議(カノン)をイングランド教会に適用しようとしたフランシスカンやそれに同調する司教たちが、教会特権を世俗権力より上位に置くべきであるというカトリック神学の世界観を、イングランド国制に適用した司牧活動の一環とみなし得る、という。ホスキンは長年にわたり司教管区の司教令の資料編纂の事業に携わってきたが、その経験を生かして、司教たちの主張の根拠となっている教区聖職者の低教育のはびこり、それによる信者のカトリック離れについて研究を公表してきた。彼女の研究によれば、伯やバロンなどの世俗諸侯は王国統治の諸問題を武力や金銭で解決することはできなかったが、国王ヘンリ3世はカトリック信仰による住民や信徒の一体化が必要であることを認識して、グロステストに対応したという。 私の研究はホスキン説にヒントを得て、1253年の司教の不満状を逐条的に検討し、新しい見解を提出し得たと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
司教と国制という研究課題に良く沿うテーマである1253年の不満状Gravaminaを発見し、分析し、結論を導き出し得たことは、正しい選択であったと言える。 このテーマでは日本人研究者の論文は全く存在しないが、欧米では19世紀以来の蓄積がある。しかも次第に革新されつつあるので、正確に論点の移り変わりを跡付ける必要があり、網羅的な先行研究渉猟が前提となる。過去2年間でそれをほぼ成し遂げた。グロステストに関する複数の論点のうち、最重要論点は1250年のリヨンでの教皇との論争であるが、それに取り組む前提となるのが、グロステストの神学の中でのイングラド王国国制に関する彼の思考の解明である。それをよく示すのが1253年の不満状とそれに関する国王との意見交換である。史料もよく揃い、先行研究も十分なので、研究対象として好都合である。 この論点を解明するには、カトリック神学、カノン法学、イングランド国制史、政治史の素養と知識が必要である。神学については研究協力者である関西大学の加藤雅人教授の助言を得た。またカノン法学については関西大学法学部教授の市原靖久教授の助言を得た。その結果、門外漢の上滑りを避けることが出来た。 史料はすでに欧米の研究者によって転写、刊行されている。しかし実物が英仏各地の図書館に保存されているので、渡欧して実物を直接読んで転写した。そのおかげで欧米研究者と同じ水準に立つ研究を為し得るという確信を持てた。 成果として公表した論文刊行後、抜き刷りを読んだ日本の教会史研究者から、私の研究視点が新しいとの評価を得た。またロンドン大学のカーペンター教授ともメールでやり取りし、助言を得た。これらによって申請した研究計画が順調に進展していることを確信し得た。 この論文に関連して、上記ホスキンの新著を紹介する私の一文が『西洋中世研究』最新号に掲載された。これも次段階への土台となる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究では司教と国王との関係を中心に分析したが、次は司教と教皇との神学論争が主題となる。というのは司教が国王に不満を述べていることを知った教皇インノケンティウス4世は、封臣としての国王ヘンリ3世を擁護したからである。司教は本来は自分の上級者であるべき教皇の、カトリック世界観を問い質す必要が出てきた。 グロステストは教楷制を司牧に必要な制度として前提し、そのうえで、教皇の無謬性の主張を批判する。インノケンティウスは教皇権の至上性を神授の特権と前提してグロステストの主張を批判し、当時滞在していたリヨンの教皇庁から彼を追い返す。この論争時の論点は13世紀のカトリック神学の世俗国制観をよく示している。 一方国王ヘンリ3世は決してカトリック神学を無視してはいなかったが、世俗的国制観には13世紀の時点では限界があることを認識できていなかった。研究史によれば、グロステストの影響を受けたシモン・ド・モンフォールは、カトリック神学に基づく国制を目指したと言われている。1250年にガスコーニュ総督であったシモンが、リヨンを訪れたグロステストに会い、司教の論文を読んだと言われているが、今年度の研究でその当否を論証し得るであろう。 史料は大英図書館に保存され既に転写し、それに関する先行研究も読了した。従来の研究では触れられていなかった、グロステストとシモンとの国制観をめぐる論点について新見解を提示する。 申請時の計画では成果を英文で著作し、欧米の学会で報告する予定であったが、突然、新型コロナウィルスの発生によって、海外への渡航が困難になった。英文での論文執筆は予定通り行うとして、その発表は国内においてということになるかもしれない。ロンドン大学のカーペンター教授とはメールで情報交換し、助言を得る。今年度も引き続き関西大学加藤教授と市原教授の助言を受けつつ、国内学会での発表を目指す。
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Research Products
(4 results)