2018 Fiscal Year Research-status Report
中世盛期スコットランドの王国共同体形成過程における教皇特任裁判官による紛争解決
Project/Area Number |
18K01054
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Research Institution | Otemae University |
Principal Investigator |
西岡 健司 大手前大学, 総合文化学部, 准教授 (70580439)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中世スコットランド / 王国共同体 / 教皇特任裁判官 / 紛争解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
中世盛期のスコットランドは、アイデンティティの異なる多様な地域の集合体から出発し、やがて王権を中心に王国共同体意識を共有する統一王国へと発展する。その過程においては、王国の人々(とくに有力者層)が共同体意識を育む土台として、広域にわたる実質的な人的交流関係の構築が想定されるが、その道筋は多様かつ複雑で、未解明の部分が多い。 本研究では、そうした人的ネットワーク形成の重要な回路のひとつとして、教皇特任裁判官による紛争解決に焦点をあてる。12世紀後半から13世紀にかけて急増した当該裁判では、教皇が王国内の聖界有力者を裁判官に任命したが、その人選は通常の裁判や仲裁とは異なる場合が多く、受任者と紛争当事者との間に異例な接触の機会を創出した。また、紛争解決の過程では当事者間の和解を優先するために、聖俗多様な人々を巻き込みながら解決法が模索される場合も希ではなく、事後継続的な人間関係が形成された形跡も垣間見える。本研究では、個々の紛争の経緯を具体的に明らかにし、紛争に関与した人々の動態を詳細に分析することで、教皇特任裁判を媒介とした人的交流関係構築の実態を解明することを目的とする。 研究開始にあたる初年度は、12・13世紀のスコットランドでおこなわれた教皇特任裁判の事例を網羅的に把握し、各々の紛争解決のプロセスを跡づけるための史料の収集整理に努めた。具体的な史料としては、教皇文書やスコットランドの国王・聖俗諸侯が発給した証書が中心となるが、未刊行の史料も少なくない。当初の計画では、初年度から海外の文書館で未刊行史料の調査を開始する予定であったが、配当された予算が4年間継続して海外調査を実施するに十分ではなかったため、初年度の海外調査は断念し、次年度以降に集中的に効率よく調査を実施して当初の目標を実現できるよう、慎重に事前調査をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り、予算の関係から海外の史料調査の回数を減らす必要が生じ、当初予定していた海外の文書館での作業開始を次年度に先延ばしすることとなったため。
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Strategy for Future Research Activity |
4年間の研究期間のうち前半の2年間は、教皇特任裁判そのものの進行過程で残された史料から、紛争解決のプロセスに関わった人物の情報を収集整理し、量的な分析によって判明する傾向の把握に努める。 とくに2年目は、未刊行史料の調査が中心となる。初年度の遅れを取り戻すべく、集中的に海外の文書館での史料調査を進める。その上で、刊行史料の情報と併せて個々の紛争解決の経緯を詳らかにし、すべての紛争関係者(紛争当事者、特任裁判官、審問対象者、証人、仲裁に移行した場合の仲裁人、他の裁判に移行した場合の裁判権者、合意形成のための協力者など)の情報を網羅的に抽出してデータベースを作成する。それをもとに、各人物の間でどのような形で接触の機会が生じていたのか、特に聖俗の制度的な枠組みを超えた関係性について、数量化して特徴を分析する。 その後の計画としては、紛争解決のプロセスへの参加をきっかけに接触の機会を持った人物たちが、事後にどのような新たな関係を築くに至ったのかを明らかにする一方で、特定の人物数名の長期的な活動を詳細に跡づけることを通して、各種多様な経験の中で教皇特任裁判という機会が人的交流関係の構築の上で有した特徴を明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
「研究実績の概要」に記した通り、本年度に予定していた海外調査を取り止めたため、旅費計上分の予算を繰り越すこととなった。繰り越し分は3分割して翌年以降の海外調査費に上乗せし、研究計画を遂行するのに必要な調査が十分に行えるだけの渡航期間を確保する予定である。
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