2019 Fiscal Year Research-status Report
布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の伝播からみた日本海ルートによる人移動の考古学的研究
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18K01059
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
高橋 浩二 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (10322108)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 考古学 / 掘立柱建物 / 布掘り柱掘形 / 集成 / 高床倉庫 / 弥生・古墳時代 / 日本海ルート / 移動・移住 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画にしたがい、今年度も引き続いて、①主に地中梁の設置という観点から布掘り柱掘形の分類の再検討をすすめた。地中梁が遺存しない例については、遺構平面図や土層断面図を再度見直し比較検討を行った。その結果、布掘り柱掘形が3タイプに分類できることを再確認するとともに(分類は交付申請書の研究実施計画に記載)、布掘り柱掘形が当初から一部の柱間で途切れていると判断できるものを含めて、さらに細分が可能かどうか検討をすすめることとした。 並行して、②布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の全国的な集成を行った。北陸に関しては、新たに1遺跡2例を追加し、その結果、同建物の確認例はあわせて66遺跡約209例となった。これを旧国別でみると、若狭は1遺跡3例、越前は11遺跡36例、加賀は46遺跡161例(建替え2例含む)、能登は4遺跡5例、越中は2遺跡2例、越後と佐渡は各1遺跡1例となる。他地域に関しては、島根県と鳥取県に類例が多数存在することを再確認した。この他、佐賀県と大分県、福岡県、愛媛県、広島県、岡山県、兵庫県、滋賀県、三重県、愛知県、静岡県、東京都、福島県に弥生時代から古墳時代前期にかけての類例が存在することを確認した。研究途中段階だが、暫定的に分布図を作成したところ、北部九州から瀬戸内、近畿、東日本太平洋側にかけては散漫な分布傾向を示すことが分かってきた。また、日本海側では、但馬や丹後、若狭では分布が希薄なのに対して、山陰と北陸(とくに越前から加賀にかけて)に集中しており、両地域における集団の密接な関係を推定させる結果を再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の目的のうち、①布掘り柱掘形の分類の再検討に関しては、地中梁の設置という観点に着目することで、Ⅰ~Ⅲ類の違いのもつ意義について一定の見通しを得ている。ただし、地中梁が確認又は推定できる例は少数であるため、地中梁を設置せずに、地盤改良のため土を入替えることが目的だった場合もあると思われる。また、布掘り柱掘形が当初から一部の柱間で途切れていると判断できるものや、個々の柱位置に礎板や枕木を置く例なども認められ、引き続いて分類を詳しく再検討する必要がある。 ②の全国的集成に関しては、北陸地方における2019年3月発行分の報告書までの集成が完了し、分布の特徴についてこれまでの考えを追認する結果を得ることができた。さらに、他地域における集成をすすめたところ、北部九州や瀬戸内、近畿、東日本太平洋側にかけては類例が少なく、分布も散漫なのに対し、山陰地方に類例が集中するということを再確認することができた。しかし、布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物には遺物が未出土で、他遺構との重複関係等も認めらないため、時期が不明確なものも多く、各地における出現や変遷について十分に検討をすすめることができなかった。また、出土遺物の実見等に関しても今年度末に計画していた資料調査を実施することができなかった。 このように、研究目的と研究実施計画に沿って、弥生時代から古墳時代前期にかけての類例が最も多い北陸地方に関しては今のところおおむね順調に進展しているが、他地域に関しては十分に検討がすすんでいるとは言えないため、現在までの達成度について上記のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
①の布掘り柱掘形の分類の再検討に関しては、地中梁が確認されている例や推定される例が重要と考えられるため、引き続き検討をすすめる。また、地中梁や柱根が未確認の布掘り柱掘形についても遺構平面図や土層断面図等をあらためて見直す。そして、これらの検討を通じて布掘り柱掘形の分類ごとに基礎構造の違いを明らかにするとともに、柱掘形を布掘りする意味を考える。 本研究は布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の集成を基礎とするものであるため、②の全国的集成を引き続きすすめる。北陸に関しては主に2019年4月以降に発行された報告書等を確認する。他の地域に関しても未見の報告書等を調べ、集成を行う。また、遺構の構築時期あるいは廃絶時期を再検討する。そして、分布図を作成し、全国的な分布の特徴について明らかにする。 次年度はさらに、布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の地域ごとの変遷等を明らかにするとともに、③同建物の出現や系譜関係、伝播過程について検討する。そして、関連する遺物の研究も参考にしながら、日本海ルートにおける人の移動・移住という観点から検討をすすめる。
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Causes of Carryover |
旅費については、出土遺物の実見等に関して今年度末に計画していた資料調査を行うことができなかったため、次年度に実施することにした。また、布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の集成が完了すれば、分布図等の図面を作成するための謝金を使用する。この他、弥生時代・古墳時代関係の図書を購入する予定である。
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Remarks |
高橋浩二2019「布掘り柱掘形をもつ掘立柱建物の特異性」『佐渡の王-蔵王遺跡-』新潟県埋蔵文化財センター2019年度春季企画展展示図録
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