2018 Fiscal Year Research-status Report
Early Islamic Routes in the Hijaz: A Study through Rock Graffiti
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18K01060
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
徳永 里砂 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員准教授 (00458936)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アラビア半島 / サウジアラビア / ヒジャーズ地方 / 初期イスラーム時代 / アラビア文字 / グラフィティ / 古代北アラビア文字 / 古代南アラビア文字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、アラビア半島ヒジャーズ地方の岩壁に残されたグラフィティ(非公的碑文)を用い、初期イスラーム時代の陸路ネットワークを解明するものである。初年度である2018年度は、現地調査の実施が年度末の実施となったため、それまでの活動は、前年度までに行った本研究と同目的の調査・研究の成果発表となった。国外では8月に大英博物館でのアラビア学セミナーにてポスター発表し、その内容は2019年の同学会誌への掲載が確定している。また、国内においても、日本西アジア考古学会大会(6月)ならびに同発掘調査報告会(3月)にて調査成果を発表した。史料の詳細な分析結果も英文論文として刊行済みである。 現地調査としては、2019年3月、サウジアラビア・日本合同調査隊の調査の一環として、タブーク州南部・マディーナ州北部におけるグラフィティ調査を約2週間にわたって実施した。初期イスラーム時代の古道を明らかにするためのこの調査では、サウジアラビア側のカウンターパートである国家遺産観光庁のメンバーとともに、地元の人々の協力を得ながらワーディー(涸谷)や岩山に入って旅人が残した文字史料を探し、新遺跡8箇所を含む10地点にてグラフィティの写真撮影・計寸・位置情報の記録を行った。本研究の主対象である初期イスラーム時代のアラビア文字グラフィティに加え、古代北アラビア文字碑文、先史のものを含むペトログリフ、さらには古代南アラビア文字碑文など数多くの新資料が発見された。国際交易路として認識されていなかった地域においても、遠く離れた南アラビア出身者の碑文や、アラビア半島には存在しないフタコブラクダが発見されたことは、この地域が歴史を通して予想以上に交通上の重要な役割を担っていたことを示している。また、調査終了後には、国家遺産観光庁・キングサウード大学共催の講演会にて調査成果の速報を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度である2018年度は、サウジアラビアでの現地調査ならびに成果発表をほぼ計画通りに実施することができた。 但し、サウジアラビアでのグラフィティ調査については、調査方法について変更を余儀なくされた部分があった。当初の研究計画では、調査地域内に設定したグリッドごとにグラフィティの在・不在を明らかにしてゆく予定であったが、豪雨による地形の変化や安全面からの諸事情などにより、踏査できない場所が多く、それが叶わなかった。しかしその一方で、調査が広範囲となったため、計画以上に多くの地点を調査してグラフィティの有無を記録することができた。今後の調査では、諸般の致し方のない都合により一度の調査で同一グリッドの踏査が完結できなくとも、最終年度までに調査域全域にて可能な限り均一な調査を行うことで、当初の研究目的から逸れることがないよう心掛けるつもりである。したがって、上記のような調査の展開は、研究全体の遅延につながるようなものではないと考えている。また、2018年度の調査で発見・記録した資料・データは、質・量ともに予想を上回り、ヒジャーズ地方の古道研究に十分役立てられるものである。よって、調査の進行状況はおおむね順調と言える。 研究成果発表に関しては、国内外での学会発表・出版物ともに当初の計画以上に進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度以降も前年度に引き続き、サウジアラビア・タブーク州にて古道を解明するための調査・研究を継続する。2019年度は、まず、前年度末のグラフィティ調査で記録した資料の整理・解読とそれ以前の調査による成果の刊行に務め、特にサウジアラビア国家遺産観光庁のAtlal誌に掲載する調査報告の執筆を急ぐ。また、当初2019年度は国外での学会発表を計画していなかったものの、9月のカイロ・アメリカン大学での会議「イスラーム世界の碑文」での発表が受理されており、口頭発表を行う予定である。国内の学会についても、日本西アジア考古学会等での発表を計画している。 現地調査については、2018年3月にリヤドの国家遺産観光庁の調査・研究部門責任者と話し合いを行った結果、調査域拡大について前向きな回答を得ることができた。よって、ヤンブゥなどのヒジャーズ地方のいくつかの歴史的重要都市にかかわるルート調査が可能になる見込みである。2019年度の調査では、地元の郷土史家や山中のワーディーや古道を熟知するベドウィンのさらなる協力を得てグラフィティの分布に関する情報収集を徹底し、調査域中に極力空白部分を残さぬよう留意しながら調査を進める。発見した資料については前年同様GPSによる位置記録、写真撮影、計寸を行う。2018年度の調査では、聞き取り調査により碑文の所在が確認できているものの、徒歩2日行程の登山が必要なため調査を断念した遺跡があるが、2019年度には装備を整えて臨みたい。 2020年以降も、毎年国内外での調査成果・研究発表を行うとともに、各年度後半でのタブーク州でのグラフィティ調査を計画している。最終年度となる2022年度に関しては、これまでの調査で得られた資料を基に、ヒジャーズ地方の道をミクロな視点とマクロな視点の双方から考察し、初期イスラーム時代の陸路ネットワークの在り方についての研究の総括を行う。
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Causes of Carryover |
2018年度は本課題研究の初年度で、科研費の利用のための大学ネットワークに当初うまく接続することができなかった。そのため、6月の国内学会、8月の海外学会の出張手続が間に合わず、自費で出張を行った。2018年度の科研費の大半は年度末のサウジアラビア調査のための海外出張旅費としての出費となったが、それでも同国国内での陸路移動、車両借上費などを支出するに足る残金はなく、これらに関しては全額を自費負担した。2019年度は当初の予定以上に海外出張が多くなるなど、前年度以上に研究費が必要となる見込みである。したがって、2018年度の残額は2019年度の海外出張旅費の一部とする予定である。
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Research Products
(13 results)