2019 Fiscal Year Research-status Report
Early Islamic Routes in the Hijaz: A Study through Rock Graffiti
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18K01060
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
徳永 里砂 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員准教授 (00458936)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グラフィティ / サウジアラビア / ヒジャーズ地方 / 初期イスラーム時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、アラビア半島ヒジャーズ地方の山谷に点在するグラフィティを用いて初期イスラーム時代の道と周辺部の機能を明らかにすることを目的とする5ヵ年の研究である。その2年目となる2019年度は、フィールドワーク調査と前年度までの調査成果の発表の2軸で研究活動を行った。 フィールドワーク調査に関しては、前年度に引き続き、サウジアラビア、タブーク州南部にて2期のグラフィティ調査を行った。2019年8月の10日間の調査は情報収集を中心に行い、2020年2~3月の25日間の調査にて重点的なグラフィティ踏査を実施した。その結果、50点以上の古代グラフィティや数多くの岩絵に加え、45点以上の初期イスラーム時代のグラフィティを発見し、これらの位置情報の記録、写真撮影、計寸を行った。当該年度の調査により、①グラフィティが幅の広い大規模なワーディーよりもやや狭い中規模のワーディーに分布すること、②グラフィティが道として利用されたと考えられるワーディーのみならず、奥まった山間の水場近くにも分布するといった傾向を明らかにすることができた。これらは初期イスラーム時代の旅人の行動パターンを解明するための重要な手がかりとなる。 研究成果発表に関しては、国内の学会の他、7月にライデン大学で行われた「アラビア学セミナー」にて前年度の調査成果を、9月にカイロ・アメリカン大学で開催された学会「イスラーム世界の碑文」ではタブーク州北部の資料に関する研究成果を報告した。また、2020年1月に東京文化財研究所で行われた国際シンポジウム「アラビア半島の考古学」では、2019年3月のタブーク州南部の調査で記録した新資料に基づいて、古代からイスラーム時代の陸上ネットワークの変遷について発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サウジアラビア、タブーク州の現地調査では、当初、調査域内に空白を残さずグラフィティの分布を調べることを計画していたが、安全確保の問題や、インフォーマントの事情により、踏査が叶わない地域も残された。とはいえ、2019年度は当初の計画を大幅に上回る長期間の調査を行うことができたため、それを補うべくより広域な調査を行い、グラフィティの大まかな分布傾向を明らかにすることができた。2018年より国家遺産観光庁(当時。現在は文化省に統合)と共同で行っているタブーク州南部のグラフィティ調査は、当該年度で4期目を終えた。調査の円滑な執行にあたっては、地元の郷土史家、遊牧生活を営むベドウィン等、地元のインフォーマントたちの協力が不可欠であるが、4期の調査を経て、地元社会とのより良い関係を築けていることが実感できるようになった。 研究成果の公表に関しては、2018年度までのグラフィティ資料全点の刊行が未だに準備段階にあるものの、国内・国外共に計画以上に多くの研究発表を行う機会を得た。また、前年度までの調査内容と新発見史料の概要については、学会誌の短報やポスター発表などの形で公表を行った。 以上のことから、全体的に見ておおむね順調に研究が進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の前半は、前年度2~3月のタブーク州南部の現地調査で記録したグラフィティの分布図・トレースの作成と、各資料の解釈を行う。2019年度と同様、国内外の学会で調査成果の速報を行うことを計画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により参加予定の国際学会の次年度への延期が発表されたため、当面は前年度までの調査で発見したグラフィティ資料の研究成果の刊行を優先事項として作業を進める。具体的には、①タブーク州南部の調査報告(サウジアラビア国家遺産観光庁定期刊行物に投稿予定)、②同地域の初期イスラーム時代の資料についての論考の執筆を計画している。 現地調査はタブーク州南部にて夏期と春期の2回実施する。夏期は現地インフォーマントからのグラフィティの所在や古道に関する情報収集と文献調査を中心とし、気候が最適な春期に3週間程度の踏査を行う。2019年度までのグラフィティ分布調査結果と地形から推測される重要地点をインフォーマントからの情報に基づいて踏査する。2020年度は本研究(5ヵ年)の3年目となることから、可能な限り調査域の空白を埋め、偏りのない資料収集を行うよう留意する。安全確保の問題等により、調査域内に立ち入ることができないワーディーも存在するが、調査域を拡大するなどして、十分な資料データの確保に努める。 2021年度も同様の形で調査を継続するが、最終年度は確認調査に留め、前年度までに記録した全資料の分布、文面・人名の分析から7、8世紀のヒジャーズ地方の陸上ネットワークの詳細を明らかにする研究の総括を行う予定である。
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Research Products
(17 results)