2018 Fiscal Year Research-status Report
黒曜石資源の獲得と消費からみた先史時代九州の社会変化に関する基礎的研究
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18K01081
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
芝 康次郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (10550072)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 黒曜石獲得活動 / 縄文時代初頭 / 石材消費分析 / 矩形剥片剥離技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、黒曜石資源の獲得と消費の様相から、先史時代九州の社会変化を探ろうとするものである。研究1年目の本年度は、佐賀県腰岳黒曜石原産地とその周辺遺跡の縄文時代初頭の様相を整理した。 前者では、腰岳黒曜石原産地の踏査をおこない複数の先史時代遺跡を発見した。腰岳において、発掘調査が実施されている標高200mまでに約100か所の遺跡を発見しており、標高が下がるにしたがって、遺跡分布が西方から北方山麓に偏ることが明らかとなっている。また今年度は、一連の踏査によって得られた石器や原石などの資料群の分析をおこなった。 後者では、縄文時代早期遺跡をターゲットとし、腰岳黒曜石原産地近傍の樽浦遺跡と、30㎞圏内の佐世保市岩下洞穴、松浦市平野遺跡の資料を用いて、黒曜石の搬入形態を検討し、原石形状や石器技術の分析作業を実施した。その結果、この時期の遺跡には径5㎝大の亜角礫~円礫の両原石を搬入し、矩形剥片の単設打面剥離、求心剥離、両極剥離によって、石器生産がおこなわれていることがあきらかとなった。また、生産される石器には、局部磨製石鏃のほか、掻器や抉入石器など豊富なスクレイパーの占める割合が多いことも明らかとなった。 消費地の原石形状から、縄文時代早期には腰岳低標高部から山麓付近の小型原石を主に利用していること、このほか後期旧石器時代に主に利用される河川を下った段丘礫層の原石も利用が計測していることも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度計画の当初の予定として、縄文時代早期の複数遺跡の石器群を対象として、黒曜石の搬入形態や搬入原石の形状、石器技術の分析をおこない、研究の見通しを得ることを目標としていた。今年度の調査によって、腰岳黒曜石原産地周辺の3遺跡の石器群の詳細な分析をおこなうことができ、搬入形態の詳細や原石形状の様相、石器技術が把握できたことは、おおむね当初の目標を達したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、腰岳黒曜石原産地周辺地域の縄文時代早期3遺跡について分析を進め、黒曜石原石の獲得から消費にいたる過程を明らかにした。原産地周辺では石器群が豊富にみられるという分析にかかる利点があるものの、石器技術のバリエーションが多岐にわたり、当該期人類が主要としていた石器技術の把握がやや難しい。そこで、佐賀平野部や福岡平野部など、原産地から50㎞圏内の遺跡を対象とした分析をすすめ、原産地周辺で認められた様相の相対化をおこないたい。その調査をもとに、縄文時代初頭の黒曜石資源獲得と消費にかんする成果を公表したい。 並行して実施している、腰岳黒曜石原産地の調査についても採集石器等の分析、公表をおこない、消費地遺跡の石器群との関係について検討をおこなうこととしたい。
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Causes of Carryover |
本研究では、旅費が研究内訳の多くを利用している。次年度にも複数回の九州地域への調査、また黒曜石原産地調査等で講師派遣を計画していることから、次年度の交付決定額が今年度よりも少ないことを念頭に置くと、次年度調査費用として利用することがより適切と判断したためである。使用計画としては、年度当初に予定している黒曜石原産地調査にかかる講師派遣の旅費に充てることを考えている。
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