2018 Fiscal Year Research-status Report
飛鳥時代・奈良時代の土器様式からみた日本古代の食具様式および食事法の復元的研究
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18K01082
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
森川 実 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (30393375)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 奈良時代・飛鳥時代 / 古器名 / 「正倉院文書」 / 東大寺写経所 / 土器の計量的研究 / 陶臼 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、「正倉院文書」所載の食器(土師器・須恵器)のうち、どの器種とどの器種とが同時に使用されているかを詳細に検討し(食器セットの復元研究)、その研究成果を第37回 正倉院文書研究会において口頭発表した(タイトル「奈良時代の椀・杯・盤」)。この研究発表により、奈良時代後半の天平宝字年間(760年代)と宝亀年間(770年代)の東大寺写経所で用いられていた実用食器のセット関係が明瞭となり、考古学における土器研究の成果との相互参照が可能となりつつある。これに関連して、奈良時代後半のいくつかの土器群(平城宮SK219等)について計量データの収集をおこなった。 奈良時代後半には成立していると考えられる食器構成がいつ頃から出現しているかは、奈良時代前半、さらには飛鳥時代の土器群を精査することで明らかにできると思われる。こうした予測にもとづき、飛鳥時代後半の土器群(石神遺跡出土土器および藤原宮出土土器)についても計量データの収集と統計図表の整備を著しく進展させるとともに、藤原宮外濠SD2300出土土器群の資料化(デジタルトレース作業)をおこなった。 飛鳥時代から奈良時代にかけての食器構成は、この時代の食文化と密接に関連しつつ成立したものである。そこで平成30年度には、古器名の研究過程で偶然に気付くこととなった新視点(古代調理技術の再現)にも研究範囲を拡大し、須恵器の「すり鉢(陶臼)」が実際にどのように用いられたかを再現する研究にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初課題のひとつである「古代食器セットの復元」において順調に成果が得られた。この成果は昨年10月の正倉院文書研究会において発表済であり、今後はその内容を1篇の論文へとまとめ直してゆくことになる。「正倉院文書」所載の土器(古器名)の研究は、細部を除けばほぼ完成したとみてよい。これにより、例えば奈良時代のみやこ・平城京で出土する膨大な土器(食器)に対して、古代に用いられた器名を直接当ててよい最低限の条件が整備されたことになる。平成30年度に公表した論文等の著作はなかったが、すでに2篇の論文が投稿中であり、その成果は平成31年度に順次発表される予定である。 また、古代の食器(土師器・須恵器)の計量的研究もデータの蓄積と統計図表の作成、およびデータの分析が順調に進んでおり、ことに7世紀後半の飛鳥地域・藤原宮出土土器の計量的推移が明瞭化した。 須恵器「すり鉢」の研究は、古代東アジアに共通する調理・加工技術と直接関連しつつ、古代日本の食文化を正確に理解するうえでは不可欠と考えるようになったが、これは古器名研究を進めるなかで気づくこととなった新視点である。そこで須恵器「すり鉢」を新たに器名考証の対象に加え、『延喜式』等に登場する「陶臼」との関連性をうかがう研究に着手するなど、本研究の領域が著しく拡張した。なお、古代のすり鉢にかんする専論は1篇が投稿中であり、平成31年度中に公表の見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
奈良時代後半に用いられていた土器の名前(古器名)は、同時に用いられた「セット関係」も含めて検討を終えた。今後は写経所における給食と食器との関係について、具体的な研究(どの食器で何を食べたか)を一層進展させることとなる。例えば「麦椀」という食器がいかなる器種で、それで何を食べていたかや、「羹杯」と「塩杯」との違いについて、土器研究の成果を十分に踏まえつつ検討をくわえる。そしてその成果は、論文等によって逐次公表してゆきたい(平成31年度以降)。 土器の計量的研究では、飛鳥時代後半の食器構成が次第に鮮明となってきたが、今後は奈良時代の土器群にかんする計量的データの収集と統計図表の整備が中心となる。具体的には、平城宮・京出土土器(SD8600、SK820など平城宮出土土器群と、SD4750、SD5100など平城京出土土器群)における計量的データの収集が必要である。これらの土器群は出土量が多く、データの収集と整理・分析にはおよそ2年を要すると思われる。また、飛鳥時代の土器群についても、補足データの収集を今後実施する予定であるが、これまでに収集したデータにもとづき、土器群の計量的変化にかんする研究発表をおこなう予定である。 須恵器「すり鉢」の研究は、この器物がどのように使用されたかを具体的に考える段階に進み、複製品を用いた実用実験を実施することになる。そしてその結果をふまえ、アジアにおける「搗く」加工技術と食文化との密接なかかわりについて考察をおこなう。これに関連して、必要が生じた場合は現代使用例の調査のため、海外渡航を計画する可能性がある。
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