2020 Fiscal Year Research-status Report
藤原宮造営に伴う造瓦の新技術とその導入経路に関する総合的研究
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18K01084
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
石田 由紀子 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (40450936)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 造瓦体制 / 瓦窯 / 藤原宮 / 都城研究 / 交流と伝播 / 技術革新 / 粘土紐技法 / 瓦生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は以下の3つの項目を軸に研究を進めた。 (1) 日高山瓦窯産軒瓦について、藤原宮出土瓦も含めて、笵傷進行や製作技法について研究を進めた。前年度から継続していた日高山瓦窯の南に隣接する藤原京右京七条一坊(飛鳥藤原第17次)出土軒瓦の実測・拓本については作業を完了した。次の作業として日高山瓦窯産の軒丸瓦6233A、6274A、6275E・I、6279A、および軒平瓦6643Aについて藤原宮から出土した資料の観察をおこない、必要なものは実測をおこなった。また、軒丸瓦6274A、6279A、軒平瓦6643Aについては日高山瓦窯から高台・峰寺瓦窯など、別の瓦窯への瓦笵の移動が確認されている。このことから、瓦笵移動後の資料についても観察や実測をおこなった。 (2) 日高山瓦窯を含む発掘調査事例がある9つの瓦窯について、窯構造の比較や分析をおこなった。藤原宮の瓦窯は藤原宮造営以前から操業していた既存の瓦窯と、藤原宮造営に際し新設された瓦窯とに分けることができる。新設と既設とでは瓦の製作技法や焼成に違いがあり、これらの違いが窯構造とどのように関係するのか検討した。その結果、既存の瓦窯は伝統的な窯構造を継承しており、新設の瓦窯の窯構造は粘土ブロックなど新技術を積極的に導入する傾向にあるものの、内山・西田中瓦窯など新設の瓦窯でも比較的伝統的な窯構造をもつ造瓦グループがあることが確認できた。この違いは瓦工人の系譜の違いが根幹にあるとみられる。これらの研究成果については学術論文としてまとめており、令和3年度に公表する予定である。 (3) 全国の遺跡から出土している粘土紐技法の瓦の集成をおこなった。集成に関しては申請者が研究分担者となっている基盤研究(A)「発掘遺構による古代寺院建築史の構築」(研究課題番号15H02284)で集成した古代寺院遺跡出土瓦の集成データを用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、令和2年度の研究作業として、①藤原京右京七条一坊(飛鳥藤原第17次)出土瓦の分析と日高山瓦窯を含む藤原宮の瓦窯について窯構造に関する分析を進める、②日本国内、および韓国・中国の粘土紐技法の瓦や平窯について、出土事例の収集をおこなう、③粘土紐技法の瓦が出土した遺跡に関して、国内調査を進めるの3つを予定していた。 ③については、今年度は新型コロナウィルス感染防止の観点から、国外・国内調査は困難な状況であり実施することはできなかった。 しかしながら、①・②に関しては前年度から継続して学生アシスタントを雇用し、効率的に作業を進める事ができた。とくに①に関しては、当初の予定に加えて、藤原宮出土の日高山瓦窯産の瓦についても観察や実測をおこなうことができ、日高山瓦窯の瓦生産に関する総合的な研究をおこなうための基盤が整ったと考えている。 このように藤原宮造瓦において新技術を導入した日高山瓦窯に関する研究は順調に進んでいるが、その一方で、その導入経路に関しては、国内外の調査ができなかったこともあり、十分な成果が得られていない。そのため総合的な観点から、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで蓄積してきた日高山瓦窯に関するデータをもとに、窯構造、瓦製作技法の特徴、軒瓦の笵傷などを含めた総合的な研究を進め、日高山瓦窯の報告書としてまとめていく。さらに今年度は奈良文化財研究所都城発掘調査部飛鳥・藤原地区において日高山瓦窯の電気探査をおこなう計画が進められており、窯の配置や立地等、造瓦所としての日高山瓦窯を考えるで、より精緻な情報が得られると期待でき、本研究にもその成果を反映させることができると考えている。 また、藤原宮造瓦における新技術の導入経路に関する研究は、今年度も中国や韓国での調査は困難な状況が続くと考えられる。そのため、中国や韓国の瓦窯の発掘調査事例を発掘調査報告書からできる限り集成することで比較材料をそろえていきたい。 さらに、令和2年度に日高山瓦窯以外のほかの藤原宮の瓦窯についても窯構造等の検討をおこなったが、このことにより藤原宮の瓦窯同士も密接な関連性があることがわかった。今後、日高山瓦窯だけでなく、ほかの藤原宮の瓦窯の窯構造や瓦に関しても適宜研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
令和2年度は新型コロナウィルス感染防止の観点から、遠隔地の調査をおこなうことができなかった。必要な調査に関しては、今年度行う予定である。
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