2019 Fiscal Year Research-status Report
こけら葺屋根における最適な葺込銅板の配置を考えるための手法
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18K01089
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 裕子 京都大学, 農学研究科, 研究員 (60506088)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | こけら葺屋根 / 生物劣化 / 銅元素 / 腐朽 / 損耗 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は以下の3項目を中心に実験を進めた。 (1)こけら葺屋根モデルの暴露試験,(2)こけら葺屋根モデルのCT撮像による上下こけら板間の隙間の測定の可能性を検討,(3)5年間暴露試験したこけら葺屋根の解体と生物劣化の観察・記録, (1)について,2018年度に開始した6体の屋根モデルは,3か月ごとに各段の葺足部分の測色および蛍光X線分析による銅元素の測定に供した。測色では暴露後6か月で明度,色度,彩度の値(いずれも正)が小さくなり,元の木材色が灰色に近づく傾向が認められた。蛍光X線分析の結果は,屋根の勾配や葺込銅板の位置によって葺足部分の銅元素濃度が異なった。これらの結果より,暴露試験はほぼ順調に進んでいることがわかった。 (2)暴露試験とは異なるこけら葺屋根モデルを作成し,大型CT装置で撮像して,モデルの寸法や上下こけら板間の隙間を観察できるかどうかを検討した。モデルの寸法については,作成したモデルで観察したい上下こけら板間の隙間を十分に観察できることが分かった。また,板間の隙間についても観察可能であることがわかったが,屋根を葺く際の野地部分や板を止める際に要所要所で使用される鉄釘によるアーチファクトが予想よりも強く表れたため,プラ釘を使用する,板を葺く部分ではかな釘を使わない,野地のパーツは接着剤で留める等の工夫が必要であることがわかった。 (3)について,約5年間屋外暴露したこけら葺屋根モデルを回収して幅方向に2分割し,その一つはこけら板を1段ずつはがして劣化状態を観察した。葺込銅板よりも上段と下段で葺足の損耗の仕方が異なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験はおおむね順調に進んでいる。順調に結果が出つつあるものとして以下が挙げられる:(1)屋根モデルは,定期的な計測を行い,色変化や銅元素分布の経時変化をとらえつつある。(2)実際のこけら葺屋根から採取した試料の蛍光X線分析で,屋根における銅元素分布を明らかにし,2019年度6月の文化財科学会で発表した。また,順調に進行しつつある実験として以下の3点が挙げられる:(3)暴露試験とは異なるこけら葺屋根モデルで水分の浸み上りを観察できるかどうかの可能性を探る実験が進みつつあり,大型CT装置による測定を行い,適切なモデル寸法,測定時の釘の影響などを明らかにした。(4)5年間暴露したこけら葺屋根モデルについて,劣化状態の観察や銅元素分布について調べつつある。暴露後数年のこけら葺屋根について,そのような知見はほとんどない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降,以下のように実験を進める予定である。 ◆屋外設置した屋根モデルについては,葺足部分の銅元素量をハンディタイプ蛍光X線分析装置で2~3か月ごとに測定する。合わせて,測色も行う。屋根モデルは架台から取り外し可能なので,測定前にモデルを取り外して室内で測定する。 ◆別途の屋根モデルを作成し,こけら板の初期含水率と葺く時の締め具合によって,水の浸み上りや滞留に違いがみられるのかを調べる。大型CT装置による撮像に適したモデル寸法や金属製の釘を使用しない方がよいことなどがわかったので,それを考慮したモデルを作成する。また,CT撮像での水分状態観察に加えて,可能であれば市販の木材含水率計のプローブ部分を改造してこけら板の隙間に挿入できる形状にして葺足より奥の水分状態を調べられるようにすることを考えている。 ◆実際のこけら葺屋根に関しては,出張が可能になれば,文化財建造物保存技術協会に修理工事を行う建物を紹介していただいてサンプルを採取し,屋根における銅元素分布の知見を蓄積していく。 ◆得られた知見から,こけら葺屋根におけるこけら板自体とこけら板間への水分浸潤や乾燥についてのモデル式を出し,雨水に溶出した銅イオンの広がり方やその速度に関する予測式を立てることを目標とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,修理工事に合わせた屋根の採取に出向くことができなかったこと,学会が中止になったことにより,出張が少なくなったこと,CT観察結果検証用PCの納期が遅れ水分のシミ上がり観察用のモデルの仕様の決定が遅れて,2019年度中にモデルの発注ができなかったことによる。
次年度使用額と請求した助成金と合わせて,実施計画にあるように,引き続き,実際のこけら葺屋根の調査のための旅費,設置した屋根モデルの測定費等に使用する。また,5年間暴露した屋根モデルの観察より,葺込銅板の有無によって葺足の損耗の程度が異なる可能性があることが分かったので,損耗の程度を表面の凹凸で評価するための装置を作成しつつある。
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