2019 Fiscal Year Research-status Report
国土縁辺地域における女性およびシニア起業家の空間行動とソーシャルビジネス環境
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18K01142
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
石丸 哲史 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (50223029)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平 篤志 香川大学, 教育学部, 教授 (10253246)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ソーシャルビジネス / 社会起業家 / SDGs / クラウドファンディング |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、地理学的アプローチの真骨頂である「地域性」を追究することを主眼に置きながら、ソーシャルビジネスとコミュニティビジネスの接点を模索した。その理由は、①さまざまな社会的課題が内在するローカルな空間は「地域性」が反映している、②地域労働市場がビジネスに大きく関わっている、③地域資源を活用したビジネスでは「地域性」の洞察がカギを握っている、からである。 ローカルな次元での社会的課題を解決するビジネスとしては、地域での雇用創出や地域経済の活性化をめざすものが多い。そこで、この社会的課題に向かったビジネス展開を詳細に分析するために、福岡県宗像市を対象とした起業家に焦点を当てた。ビジネスを展開する上で彼らにとっての課題はマネタイズ(収益化)とともに事業資金の調達である。 資金調達にかかる解決方法のひとつとして昨今クラウドファンディングが活用されている。短期的な資金調達という点では簡便な方法であり、利益最大化を最重要としているのではなく、社会的課題に立ち向かっている姿勢を披露することで賛同者を得やすく、このことはマネタイズにかかる問題もある意味回避できている。 たとえば、人口流出の著しい離島において、大都市圏からのUターン者は、水産物流通の問題点を指摘しこれを克服すべく、これまで従事してきた業種とは異なる水産物加工業に取り組んだ。競争力のある生産システムを構築し販路拡大や商品開発に勤しんできたが、延長線上には地元の雇用創出を目論んでいる。 以上のように、ソーシャルビジネスの実態を明らかにするうえでは、ローカルな場面でその地域性に着目することが有効であり、コミュニティビジネスからその特徴を見出せることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、起業家の分析を当初の計画としており、ビジネスとして成立する地域素材をどのように洞察しているか、地域労働力をどのように活用しているか、起業やその後のビジネス環境はどうであるかという点を、コミュニティという単位でありながら計画どおり進めることができた。その結果、地縁的結合が達成できる6次産業を達成するビジネスの存在、地縁による垂直的結合(vertical integration)が看取できたこと、専門性を重視した製造部門の外部化が域内でみられたこと、ソーシャルビジネスの成立には地元住民による地域特性の洞察が長けていることが奏効していることが明らかになったことが成果といえる。 ただし、女性起業家やシニア事業家に限定したエビデンスは十分に獲得することができなかったことが課題として残された。しかし、一方でUターンのシニア起業家の動向とともに彼らの行動を持続可能な開発目標(SDGs)との文脈によって把握することができ、クラウドファンディングによる資金調達の実態も解明することができたので、「おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
【起業家の行動分析とソーシャルビジネス環境の分析】 最終年度である2020年度は、起業家へのインタビューとともに、九州地方・四国地方におけるソーシャルビジネスの起業家へのヒアリングやソーシャルビジネスを取り巻く環境に焦点を当てる。すなわち、これに関する資料収集を行いこれによって得られた結果をもとに、ソーシャルビジネス界においてはシニアや女性起業家がどこまで活躍できるか、地域性を反映したソーシャルビジネス環境の検討を行い、持続可能な起業支援の在り方など考察する。 その際に、2019年度の研究によって明らかになった、ソーシャルビジネスに従事する起業家が社会的課題解決を志向するがあまりマーケットの動向に鈍く、本当に消費者が求めているサービスを提供しているというよりもSDGsなどの新規性を打ち出したに過ぎないのではないかどうかという点を検討する必要もある。この検討によって、シニアと女性のソーシャルビジネスにおける活躍の余地がより明確になってくるので実証的解明に向かう際にはこの点に留意する。そして、SDGsをめざすアントレプレナープレナーシップ教育や持続可能な開発のための教育においてこれまで不足していた内容知の充実を図る。 なお、2020年度は、新型コロナウイルス感染状況による行動制約に伴って、ヒアリング等円滑に実施できないことが予想されるだけに、実証分析に関してはさまざまな方法を検討していくが、場合によっては計画変更もありうる。
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Causes of Carryover |
2019年度は、SDGsなど社会的課題が大きく強調されたためにソーシャルビジネス自体がこの動きに傾斜し、また、資金調達面でクラウドクラウドファンディングが台頭したために、これらに焦点化した研究を推進した。したがって、2020年度はシニアおよび女性に対象を幅広く設定して調査・分析する必要があるために、これにかかる相当の資金を留保した。
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Research Products
(1 results)