2022 Fiscal Year Research-status Report
ランドスケープ政策に参画する地理学の学問的基盤―ヨーロッパの地理学への新たな視線
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18K01149
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ランドスケープ / 空間政策 / 地理学 / ヨーロッパ / スペイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,ランドスケープ政策に参画する地理学の学問的基盤について,隣り合う学との協働,社会との関係の切り結び方,両者の土台をなす社会発展に関する思想,という3つの問いの考究を通じて明らかにすることを目的に掲げた。研究期間前半にあたる2018~2019年度は,地理学界の深い関与がみられるスペインのランドスケープ政策に関する研究を進め,アンダルシア自治州とカタルーニャ自治州で現地調査を実施した。ところが,2020年度に差しかかった頃にCovid-19の感染拡大(以下「コロナ禍」)が全世界的な問題として浮上し,当初予定していた2020~2021年度の海外調査を全面中止とせざるをえなかった。そのため,2度にわたる研究期間延長(計2年間)の承認を受けて研究計画を再構成し,2023年度に本研究課題を終えるという新たなスケジュールのもとで,2022年度までに概略次の研究を行った。 【2020年度】本研究課題の背景をなす地中海都市に関わる報告者の研究成果をもとに,ランドスケープ研究の理論的視座も取り入れて集成し,年度末に単著の研究書として公刊した。 【2021年度】本研究が日本の地域づくりの方法論構築を動機づけの一つとしていることをふまえ,木曽三川下流地域を新たなフィールドに加えて,ランドスケープの変化と持続性に関する調査を行った。また,本研究課題と先学の関係整理にもとづいて学会シンポジウム報告を行い,それにもとづく論文を公表した。 【2022年度】コロナ禍の制約下でも海外調査を再開できる状況となったため,ランドスケープ政策への地理学の寄与という本来の研究課題に立ち戻って,イタリアの現地調査を行った。当初の計画では,スペインに関わる第3の事例としてスペインのガリシア自治州を取り上げる予定であったが,コロナ対応の関係で渡航期間を短縮せざるをえなかったため,ガリシア自治州の調査は見送った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記したように,コロナ禍への対応として2020年度以降,当初の研究目的を維持しつつ研究計画の見直しをはかった。2022年度には,当初の計画から2年遅れでイタリアの現地調査を実現できたが,スペイン・ガリシア自治州への渡航は見送らざるをえず,今後も,スケジュール的な制約から実施できる見込みがない。また,最終年度の2021年度に予定していたイギリスの調査も,2022年度末時点において実現できていない。 とはいえ,再構成後も研究目的に沿った調査や成果公表は着実に進めているため,総合的にみた進捗状況としては,「やや遅れている」とするのが妥当と考える。とくに,2022年9月に実施した3年ぶりの海外調査では,イタリアにおけるランドスケープ政策への地理学の寄与に関して,概略次のような知見を得ることができた。 ・2022年時点で承認されている5州のランドスケープ計画のうち,フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州では,地理学者M.パスコリーニを中心とする専門家チームが計画立案を担当した。ウディネ大学でこの専門家チームへのインタビューを行った結果,イタリア文化省と州の共同計画によるランドスケープ財等に関する法規制よりも,将来に向けたランドスケープ形成のレベルで地理学者の力量が発揮されたことが明らかになった。 ・欧州ランドスケープ条約のもとでのランドスケープ政策の推進について,地理学の視点から理論・実践の両面にわたる意欲的な取組みを継続している重要な事例として,パドヴァ大学のB.カルティリオーニを中心とするグループが見出された。このグループは,欧州ランドスケープ条約の基盤にある人間主義をランドスケープづくりに繋げるために,児童向けのランドスケープ教育に関する欧州評議会への提案,地理学を核に隣接分野が連携するランドスケープ科学学士コースの立ち上げなど,注目すべき実績を上げている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の影響により,本研究課題は最終的に2年間の研究期間延長を行うことになった。当初の計画内容を順延せざるをえなかったのは不本意であるが,海外渡航を全面中止した2020~2021年度に関連研究をじっくり見直し,学会シンポジウム報告を行ったおかげで,最初に掲げた研究目的の範囲で調査のねらいを良い方向へ軌道修正することが可能になった。具体的には次のような点である。 ・ヨーロッパでは,イギリスのランドスケープ特性評価に代表されるランドスケープ政策の方法論が1970年代頃から構築されてきた。しかし,2000年の欧州ランドスケープ条約は,関係学界における研究の系譜を総合しつつ,ランドスケープを法と民主主義のもとに位置づけることで,ランドスケープ政策の可能性を大きく拡げる効果をもたらした。ランドスケープ特性評価に関わる方法論の開発も,各国で独自の展開を遂げる段階に進んでおり,以前からよく知られているイギリスの仕組みのみに焦点を当てる必然性が弱まっている。 ・とりわけ,報告者が多くの研究蓄積を有する都市地域に関して,当初の研究計画では,主にイタリアのランドスケープ政策との関係で都市計画や歴史的建造物の保存修復などのテーマも取り上げる予定であった。しかし,都市地域を対象とする肌理細やかなスケール設定のランドスケープ政策に関しては,オランダを中心に考案された「ランドスケープの履歴(Landscape Biographies)」研究など,高い応用性を備えた方法論が工夫されてきたことがわかった。 以上をふまえて,2023年度は,ランドスケープ特性評価に関わる方法論のうち,「ランドスケープの履歴」研究に焦点を当てることとし,9月に現地調査を実施する方向でスケジュールを調整する。そうした軌道修正により,定められた研究期間の枠内で,研究課題に関するより統合的な知見が得られるものと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の制約下でも2022年度には海外調査を実施できる状況となったが,本研究課題の目的を達成するには,あと2回の渡航が必要と考えられた。2022年度中は,水際措置への対応等のために渡航スケジュール上の制約が多く,勤務先大学の業務との兼ね合いも考慮すると,1回の海外調査を行うのが精一杯であった。そうしたところ,本研究課題の研究期間をさらに1年間延長(すでに行った延長分を含めて計2年間)する機会が与えられたため,最終回の海外調査を2023年度に行う方向で研究計画の修正を行うこととした。 上に述べたように,残る1回の海外調査の実施が本研究課題にとって大きな意味をもつことから,次年度(2023年度)使用額の大部分を渡航調査費用に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)