2020 Fiscal Year Research-status Report
マダガスカルにおける損失の回復をめぐる観念の歴史的過程と共時的生成の統合的研究
Project/Area Number |
18K01167
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
深澤 秀夫 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (10183922)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マダガスカル / 社会人類学 / 損失の回復可能性 / 現地民司法制度 / 民衆裁判 / イメリナ王国 / 成文法と慣習法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、文献資料から下記の点を明らかにした。 マダガスカル語で「道にある三本の薪」と呼ばれる離婚に際して、男性が財産の三分の二を、女性が三分の一を得る慣行は、元々は中央のImerina王国において行われていたローカル・ルールであるにもかかわらず、現在では北西部の地方においてもこの慣行が実践されている。この慣行が北西部に持ち込まれた時期については、1823年のImerina王国による同地方の征服と統治以降、1895年のフランス植民地化以降、何れかの可能性が考えられる。 Imerina王国に統治された事により、同地方の人びとは、コメの貢租義務を負った。しかしながら、1881年に発布されたImerina王国の成文法『305条法典』に上記の慣行についての言及が見られない上、法典内に条文化されていない慣行でもそれが当該地域の人びとによって広く実践されていれば有効であると明記されている点に鑑みて、この慣行が19世紀前半に導入された可能性について、否定はできないものの低いと判断される。 一方、1909年付けで、フランス共和国大統領名で発令された「Merinaの慣習法が効力を持つ全ての地域において、道にある三本の薪の婚姻制度は、現地民の婚姻の法的制度と見なす」との条文は、1901年に導入された共和国市民ではなく臣民身分と規定された大部分のマダガスカル住民に適応された現地裁判官による異なる法令と裁判所での審理を規定する「現地民司法制度」の実質的完成期と符合する事から、フランス植民地期に導入された蓋然性が高いと見なされる。 このようなマダガスカルの一部地域で実施されていたローカル・ルールを現地民司法制度の整備とあわせてマダガスカル全域レベルへと押し広げた裏には、Gallieni初代総督の下で司法官を務めたGamon(1863年~1918年)の働きが大きい事を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、マダガスカル現地におけるコロナウィルス感染拡大に基づく短期ヴィザ発給の停止と国際航空路線の発着停止措置、日本の外務省によるマダガスカル地域についての感染注意情報がレベル3の「海外渡航の禁止」が発出措置、以上の二点に基づき、当初予定していたマダガスカル現地における三カ月間の文献調査及び聞き取り調査の双方が一切実施できなかったため、三年目の研究の遂行に大きな支障が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度が本研究の最終年度であったが、上述した事情により3年目の研究計画実施について大きな支障が生じたため、一年本研究を延長する措置を講じた。 2021年度も引き続きマダガスカル現地における三カ月間の文献調査及び聞き取り調査の実施を目指すものの、コロナウィルスの感染状況に基づくマダガスカル地域への渡航が不可能である場合、フランスもしくは同海外県のレユニオンへの渡航が可能であれば、同地域における文献資料調査及び同地域に居住するマダガスカル人への聞き取り調査に振り替える予定である。 フランスやレユニオンへの渡航もコロナウィルス感染状況により不可能である場合には、日本における文献調査やネット調査に基づいて本研究主題の探求を出来るところまで遂行する。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していたマダガスカル現地における文献調査と臨地調査の双方が、コロナウィルス感染拡大に伴い、マダガスカル側の短期ヴィザ発給の停止と国際航空便の離発着の停止、日本側の「感染症危険情報レベル3 渡航禁止」の発出により、遂行する事ができず、研究の進捗に著しい支障が生じた。 2021年度も、引き続きマダガスカル現地における三カ月間程度の文献調査と臨地調査を予定しており、その旅費・滞在費に予算の多くと充当する予定である。 しかしながら、コロナウィルス感染により2021年度内にマダガスカル渡航の見通しがたたない場合には、マダガスカル関連の文献資料が所蔵されると共にマダガスカル出身者が多く居住するフランス本国もしくはフランス海外県レユニオンにおける調査により、本課題を遂行する。 フランスとレユニオンにおける滞在・調査がコロナウィルス感染により不可能な場合には、文献およびネット上情報により研究課題に対応する。
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