2019 Fiscal Year Research-status Report
Colonialism and Peacebuilding : Focusing on the oral life histories of Indigenous People as Internally Displaced People
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18K01176
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
細谷 広美 成蹊大学, 文学部, 教授 (80288688)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 先住民族 / アンデス / 紛争 / 記憶 / 平和構築 / ペルー / ライフヒストリー / 国内避難民 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペルーで約1カ月間のフィールドワークを実施した。首都リマで文献調査及び研究者と意見交換するとともに、山岳部アンデス地域で、紛争期間中に国内避難民となる経験をした先住民の人々にインタビュー調査をおこなった。また、先住民の紛争経験を取り入れた演劇作品を公演してきている国際的に著名な文化集団ユヤチカニの主宰者を招いて開催された「ペルーの平和構築プロセスに演劇はどのようにかかわったか」で講演し、これをもとにソーシャリー・エンゲイジド・アートと多言語・多文化のオーディエンスの関係を分析した論文を刊行した。 また、本研究の研究成果を日本文化人類学会研究大会及びAmerican Anthropological Association(AAA)の年次会議で発表した。AAAでは複数国出身の研究者たちとともにGlobal Dynamics of Indigenous Arts and Expressive Cultureというタイトルのパネルを組み発表した。これをもとに現在英語論文を執筆中である。この他、『ラテンアメリカ文化事典』、国内避難民となった人々のライフヒストリーを扱った書籍出版のための原稿を準備している。 紛争終結後数十年を経ることで、紛争を直接経験した世代の高齢化が進み、世代交代が起こっている一方で、紛争をめぐる集合記憶を形成するのに寄与する報告書、文献等が刊行されてきている。先住民のうち紛争を経験した世代のスペイン語の識字率は低いが、紛争後に学校教育をうけた世代の識字率は上がっている。間テクスト性という概念はこれまで主として文字テクスト間に用いられてきている。しかし、無文字から文字文化へ移行する社会におけるライフヒストリー(オーラルヒストリー)を分析するうえでは、文字テクストのみでなく、口承と文字テクスト間、口承間にも間テクスト性の概念を用いることの重要性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アンデス山岳部の先住民地域での調査は海抜4000mに至る高度で調査するので、現地到着後、1週間程度の高地順応が必要となる。約1ヶ月間をフィールドワークに費やすことができたので、高地の先住民村で調査することが可能となった。 インタビュー調査はケチュア語で実施したので、現地の研究者にテープ起こし、ケチュア語からスペイン語への翻訳のサポートを依頼した。ケチュア語は標準ケチュア語が存在せず、地域によって多様であり、またケチュア語の知識が豊富なケチュア語話者が少なくなりつつあるため翻訳が難しい。多くの経験を積みケチュア語の知見が深い研究者の支援を受けることで、インタビュー内容をより正確に翻訳することが可能になった。これにより、調査データーをより豊かにすることができた。 ラテンアメリカでは近年各地で政治的暴力を記憶する博物館の建設が進んでいる。ペルーでは、2015年に「暴力の時代」を記憶する記憶の博物館である「記憶の場、寛容と社会的包摂」(LUM)が建設されている。この博物館に、ペルー国内トップレベルの国立大学であるサン・マルコス大学の学長だった時に、大学の研究を活性化し、学術出版を大幅に促進した歴史学者のマヌエル・ブルガ博士が新たに就任した。ブルガ博士の館長就任後、「記憶の場、寛容と社会的包摂」博物館の活動は活発化している。ブルガ博士にお会いし、研究への協力を依頼した。多くの資料を持つ「記憶の場」博物館の協力は本研究の進展に大いに寄与すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ペルーでのフィールドワークを予定している。再度先住民地域でインタビュー調査を実施するとともに、「記憶の場、寛容と社会的包摂」博物館で資料収集を実施する予定である。紛争研究において、語られないこと、時間とともに語られるようになることがあるため、語られないことの存在を常に視野に入れる必要がある。このため長期的定点観測が重要である。 ただし、ペルー政府は新型コロナウイルスの影響で3月から国境封鎖をおこなっているとともに、現在ペルー国内で急速に感染者数が増加している。非常事態宣言により、感染のトリガーとなった首都で日雇い労働やインフォーマルセクターでの仕事に従事していたアンデス山岳部からの移民たちが、都市で生活できなくなったことで、アンデス山岳部の出身地に帰還しているという情報を得ている。このため今後先住民を含む最も脆弱な層に感染が拡大していくことが予測される。 感染の拡大、国境封鎖が続いた場合、本年度予定していたペルーでのフィールドワークは難しくなる可能性がある。先住民地域に行くことができなくなった場合は、首都リマで調査研究を実施する。ペルーに渡航すること自体が困難になった場合は、インターネットを通じてアクセスできる「記憶の場」博物館の資料を含め、インターネットによる資料収集、及び適宜メール等を通じてのインタビューをする。また、成果発表のため英語論文、スペイン語論文の執筆、日本語による書籍出版を目指した執筆を進める。 他方で、紛争の直接の経験者が高齢化し、故人となっている方も少なくないので、調査の緊急性を実感している。
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Causes of Carryover |
分担者となっている別の科研から、旅費(航空運賃)の一部を支出したため(異なる科研であるため、調査内容及び日程は別)。 ペルーアンデス地域での調査研究は航空運賃(約50万円)、現地での交通費(車両借用料)が高額であるため、助成金のうち旅費への支出が占める割合が高い。繰り越しをすることによって次年度の旅費、調査助手(先住民言語であるケチュア語話者)・研究協力者への謝金として使用する予定である。
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