2018 Fiscal Year Research-status Report
An Anthropological Heritage Study on Human Towers in Catalunya, Spain
Project/Area Number |
18K01178
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹中 宏子 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (30376967)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 人間の塔(Castells) / 文化遺産 / 身体 / アッサンブラージュ / 地域主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2010年に世界遺産登録された「人間の塔(Castells)」は、近年、日本でもよく報道されるようになり、カタルーニャを象徴する民俗文化という認識が広がっている。本研究は、バルセロナの伝統的な街区で活動する人間の塔のチーム「サンツ」(Castellers de Sants)を主な対象に、人間の塔の歴史と現在を通して民俗文化の捉え方の変容を明らかにしていくことを目的としている。 平成30年度には短期の現地調査を3回行ったが、参与観察を通して、主に人間の身体で建てる塔の仕組みや特徴について理解を深めた。人間の塔は、身体が塔のあらゆる部分になり隙間なく組み合わさることで形成されているが、各部分の位置や役割(身体の動かし方・支え方など)が合理的に構成されていることがわかった。人間のもつ力では、理論的には高さ10m以上になる塔のパーツとしては弱すぎるが、力を分散させる「南京玉簾構造」をもつことで塔が成り立っている。また、「支える」だけでなく「押す」力や、揺れを制止するために身体を強ばらせ不動化するのではなく、逆に揺れにシンクロさせるために身体をひらき共振化させる点、体格のみならず、年齢・性・国籍・その他の社会的属性もバラバラな人間が寄せ集まる(「アッサンブラージュ」する)点も人間の塔の特徴である。さらに、塔の中心部分や上に乗るメンバーには、特に「信頼」や「責任感」といった身体的な技能や耐久性とは別の次元の要素も重要である点がみとめられた。このような研究成果として国際シンポジウムを開催し(「天までとどく人間の塔」:2018年11月3日@早稲田大学)、現在『人間科学研究』32巻に投稿中である。 こうした参与観察から得た成果から、政治性を帯びる以前の、個々の人間の身体性に着目する視点の重要性がみとめられた。今後はより身体性に着目しながら地域主義的な政治の歴史との関係性を考察していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で言及した通り、研究開始当初は人間の塔をカタルーニャ地域主義のような政治との関連性で考察する予定でいたが、メンバー個々人の次元における身体性の把握なしには政治性の理解にはつながらないことがわかり、研究全体の方向性に修正が加えられたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も大きく1) 文献調査と、2) サンツを対象としたフィールドワークを並行して進めていく予定である。 1) 先述の通り研究の方向性に変更がもたらされたため、身体性に関する文献調査を集中して行う予定である。祭り、あるいは祝祭空間と身体の関連性にも着目しながら理論的な枠組みを固めていきたい。また、そういった身体が政治とつながる先行研究もまとめていく予定である。 2) 身体の動きに着目した人間の塔を建てる過程のエスノグラフィを編むために、フィールド調査では参与観察を中心に行う予定である。また、サンツという組織としての理念、構成原理などについても、これまで行ってきたボランタリーアソシエーション研究と関連させながら、フィールドで得られるデータから考察していく。
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Causes of Carryover |
当初支出を予定していた現地調査の旅費の一部を、他の研究費で賄うことができたこと、また、国際シンポジウム開催に関しても科研費から出す予定でいたが、所属機関から開催補助費を受けることができたことなどから、次年度使用額が生じた。研究計画に従い、次年度はなるべく多くフィールドワークを実施するつもりなので、海外旅費にあて有効に活用する予定である。
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