2019 Fiscal Year Research-status Report
An Anthropological Heritage Study on Human Towers in Catalunya, Spain
Project/Area Number |
18K01178
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹中 宏子 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (30376967)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 人間の塔(Castells) / 身体性 / アソシエーション / カタルーニャ / スポーツ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度にはバルセロナにおいて2回のフィールドワークを行った。そこでは前年度に課題としていた人間の塔の身体性と人間の塔を建てるために必要な責任感や信頼感の内実を考察するため、参与観察と聞き取り調査を行った。この過程で、前年度に凡そ把握できていると考えていた塔の仕組みや特徴について、外から見た構造的な観点ではなく個々の身体性から、人を部材とした塔が建つ技術を把握することができた。特に、練習のやりとりを通して、人間の塔で伝えられる技術がいわゆる「技言語」を用いず、どちらかというとスポーツに類似した練習方法で技術を学んでいる様態が見て取れた。 現時点でのフィールド調査をまとめながら、チームの一員となる身体性について考察した。鍵となる要素の一つは正式なメンバーの証である襟付きの「シャツ」を獲得する過程である(準メンバーは「Tシャツ」)。新参者はその獲得のためにチームにコミットし、獲得プロセスを通じてチームの成員としての身体性を身に着けていく様態を考察できた。これは正統的周辺参加(LPP)の過程と見なすことができるだろう。しかし、本年度にまとめた発表論文では対象チームのボランタリー・アソシエーションとしての分析に止め、LPP論を基にした分析は次の課題とした。技術のみならずボランタリー・アソシエーションとしての側面、すなわち社会的側面に着目することにより、チームにアイデンティティを抱く仕掛けが用意されていること、そしてチーム自体が上下関係を極力排除し、親和的な関係性を基にした緩やかなシステムを維持している様態を明らかにした。それは高い塔を建てる鍵となる責任感や信頼感の基となるので、この視点から引き続き細かく見ていくことを課題とした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールドワークを重ねることにより、チームでの信頼も得られつつあり、練習においても重要なポジションに近づくことができ、したがってより内部から人間の塔という現象を体験・観察でき、昨年度課題とした身体性についてある程度考察することができたからである。また、同じく昨年度課題としていたボランタリー・アソシエーションとしての組織分析も行うことができたからである。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は主に次の点について文献調査に力を入れて研究を進めたい。 1) 人間の塔をカタルーニャ民俗文化の一つとして考察(サルダーナとの比較)、2) カタルーニャ民俗文化の政治性、3) 人間の塔がUNESCOの世界無形文化遺産に登録された過程とカタルーニャ人間の塔機構(CCCC)との関係。 3)については、聞き取り調査も必要とすることが予測されるが、新型コロナウィルス拡大の影響で渡航が困難になっている状況において研究を進める新たな方法を考える必要があるだろう。現在、Web会議システムなどを使って、現地の状況の把握に努めているが、渡航制限という状況が改善されれば、引き続きバルセロナで、 4) 人間の塔における身体性獲得の過程 の参与観察に務める所存である。また、日本に帰国した元・人間の塔チームのメンバーにインタヴュー調査をする可能性も考えている。
|
Causes of Carryover |
校務などの都合で予定していたフィールドワークにどうしても行かれなかったこと(1回減)、また、実行した現地調査の旅費の一部を、他の研究費で賄うことができたことが、次年度使用額が生じた主な理由である。次年度はそれを補うべくなるべく多くフィールドワークを実施するつもりでいたが、感染症拡大による渡航制限がいつまで続くかにかかっている。その場合、主な支出は図書費となるだろうが、国内でのインタヴュー調査も予定している。
|