2019 Fiscal Year Research-status Report
An Anthropological Study of the Genesis of 'Negative Heritage' in the Post-Conflict Era of Minamata City
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18K01182
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
平井 京之介 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (80290922)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水俣病 / 博物館 / 負の遺産 / 記憶 / 水俣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、水俣病を語り継ぐ会や水俣市立水俣病資料館、熊本県水俣病保健課などを対象に、水俣市周辺において約50日間にわたる現地調査を実施し、主として以下の2つの課題に取り組み、十分な成果を得ることができた。 第一に、1990年以降に水俣病問題に関連する行政の施策に参加してきた行政担当者やNPO職員、水俣病被害者からの聞き取り調査と、水俣病センター相思社が所蔵する水俣市の行政に関する文献調査により、水俣病資料館の博物館活動と、水俣市が進める「環境モデル都市づくり」活動の歴史、さらには水俣病によって分断された水俣社会の和解を目指す「もやい直し」活動の歴史について、有益な調査結果を得ることができた。 第二に、水俣市立水俣病資料館の運営に対する支援および助言をおこなう熊本大学受託研究「水俣病資料館資料整理等に係る業務委託」に専門家会議委員として参加しつつ、水俣病資料館の「負の遺産」を伝える活動について調査を実施した。また、水俣病を語り継ぐ会、水俣病センター相思社、環不知火プランニングが、熊本県水俣病保健課と協働して実施している水俣病問題啓発事業のうち、教職員を対象とした啓発事業、および児童生徒を対象とした学校訪問事業について調査を実施した。これにより、学校教育において水俣病の教訓を教育普及していくうえでのいくつかの問題点が明らかになった。 そのうえで、これまでの研究成果をまとめ、水俣において水俣病被害者を支援するNPO団体から水俣病を伝える活動が生成してきた過程についての民族誌を執筆した。これは令和2年度に学術雑誌に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も、熊本県水俣市の水俣市立水俣病資料館、水俣病を語り継ぐ会、水俣病センター相思社において、ほぼ予定していた通りの現地調査を実施することができた。また、昨年度に引き続き、熊本県水俣病保健課の許可を得て、水俣病問題啓発事業による児童生徒を対象とした学校訪問事業と、教職員を対象とした啓発事業に同行し、学校教員による水俣病学習活動の実態とそこで生じている問題、それらに関するNPOとの連携等について具体的なデータを収集することができた。また、この過程で学校教員や行政担当者、NPO団体等と信頼関係を築き、1990年代に水俣で展開した行政主導による「負の遺産」の構築過程について調査を進めることができた。2月以降は、新型コロナウイルスの影響により、いくつかの水俣病問題の啓発にかかわる事業が延期となったが、これらについては令和2年度、改めて調査する予定である。 また、水俣における「負の遺産」の生成に関しておこなったこれまでの研究を整理し、令和2年度の投稿に向けて、論文執筆をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度も、引き続き、被害者関連団体と水俣市、さらには熊本県による水俣病を伝える活動の実態調査を継続する。令和2年度は約3ヵ月間の現地調査を予定しており、特に被害者団体と行政とが協働しておこなう実践とその歴史に焦点を当てた調査をおこなう。その際、水俣病資料館の特別展示、水俣病関連資料データベース作成、慰霊式、語り部制度、水俣病公式確認60年記念事業、水俣病問題啓発事業、環境学習セミナーなどを主な対象とする。なお、新型コロナウイルスの影響がいつまで続くのかが現在では見通せないが、現地調査の実施に影響が出た場合には、その一部を令和3年度に延期することも検討したい。 また、学術雑誌への投稿を実施し、研究成果の一部を刊行する。さらに、国立民族学博物館共同研究会等で発表を行い、これまでの成果を確認するとともに課題を策定し、最終年度に執筆する成果刊行物の準備とする。
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