2018 Fiscal Year Research-status Report
動物の身体をめぐる3つの位相からみる生物とモノの連続性
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18K01189
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
山口 未花子 岐阜大学, 地域科学部, 助教 (60507151)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 動物 / アート / カナダ先住民 / モノ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はフィールド調査に重点をおいて研究を実施した。具体的には7月にカナダ、ユーコン準州で開催された内陸トリンギットコミュニティにおけるトーテムポール建立セレモニーに関するフィールド調査、9月にはカナダユーコン準州のカスカのコミュニティにおける葬送儀礼に関するフィールド調査を実施した。 7月の調査では、動物の表象や動物の身体を象徴的に利用するという観点から、特にセレモニーにおいて用いられる「レガリア」と呼ばれる装飾品がどのように製作、贈与されるのか、また当日どのように身に着けられ、パフォーマンスの中で役割を果たすのかといった点に注目した。そこから、動物に象徴されるクランや、祖先が内陸トリンギット内の人間関係の構築、維持に大きな役割を果たしているという点が明らかになった。また、その背景として、特にカスカなど古くからユーコン内陸部に居住してきた近隣の民族と比較して、比較的新しい時代に移動してきた海岸トリンギットと内陸のアサパスカ系諸民族との融合によって内陸トリンギットが形成されてきたという歴史的経緯が関係している様子が示唆された。 また、カスカの葬送儀礼においても墓石にクラン動物を刻むなど、象徴的に動物を用いる様子が見られた。カスカもトリンギットの影響と考えられるクランシステムをもっており、このクランが墓石に刻まれることが多い。ただしクラン動物は2種類で内陸トリンギットの5~6種類に比較すると少ないなど、コミュニティ内の社会システムにおける動物の象徴利用は、カスカでは限定的といえる。むしろ、個々人の狩猟やメディシン・アニマルを通じが動物とのつながりに重点が置かれてきたことがこれまでの研究からも示唆されており、儀礼の場面での動物の象徴的な表現の在り方という点で、特に目に見えるモノとして二つの集団に類似点が認められながらも大きな違いがあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究計画における目標としていた、カナダ先住民内陸トリンギットおよびカスカを対象としたフィールド調査を実施することができた。特に新しい研究領域である内陸トリンギットの芸術についてセレモニーという好機をとらえて調査を実施することができたことで、今後の研究を進めるにあたって必要な一次資料が着実に収集できた。また、カスカの葬送儀礼についてもこれまでの信頼関係の中で参加を許されたことから、カスカ動物との関係についてさらに深く理解することができた。こうした点から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画として、2020年までは引き続き一次資料の収集のためフィールド調査を実施する。特に内陸トリンギットの動物の狩猟や罠猟における資源としての利用について、学ぶとともに、こうした狩猟や罠猟を通じてどのような動物観が培われるのか、また食だけでなく毛皮や角などをどのように加工し、モノとして利用するのかという点についての調査が必要になる。同時に、表象される動物については、内陸トリンギットだけでなくカスカについても、彫刻や絵画といったビジュアルアートだけではなく、歌や踊り、語りなどについても調べていきたい。この際、活動や動物との関わりなどからどのように動物を表現しようという気持ちが生じるのかという点について明らかにするために、できる限り地震でも技術の習得を行いながら調査をすることを計画している。 2020年以降は補助的な調査を実施しながらも、研究成果の分析とまとめ、成果の公表に力点を置く。 また、これらの研究と並行して、自分自身が狩猟を行うことによって、狩猟することを通じて動物観や、動物の利用についてどのような感覚がもたらされるのかという点についても経験的に考察したい。ただし現在これまで狩猟のフィールドとしていた岐阜県揖斐川町周辺が豚コレラにより狩猟制限がかけられている状況であるため、もし岐阜での狩猟が今後もむつかしい場合は勤務地である北海道や自身の調査地の一つである西表島を含めた新しい場所での狩猟実践を視野に入れて準備を進める必要がある。 従って2019年に関しては、カナダでのフィールド調査を中心に研究を進める。一方で2018年度に収集した資料に関しては研究ノート、および学会発表において公表する予定である。また関連する研究会にも積極的に参加するなどしてこれまでの研究成果の再検討と新たな知見の収集にも努める予定である。
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