2023 Fiscal Year Research-status Report
Cultural and Medical Anthropological Investigation on Art Therapy-Oriented New Regional Social Movements Deriving from Cultural Psychiatry Applied for Hybrid Socio-Cultural Local Contexts
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18K01197
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮坂 敬造 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (40135645)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 先進国以外で展開する文化精神医学 / 文化精神医学的芸術療法概念の変容 / 地域に入り込む芸術療法 / 文化医療人類学 / ハイブリッド文化社会集団過程の葛藤と再統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、新型感染症の余波で、海外出張調査が困難な状況があったが、国内研究会参加(主として移民や先住民のトラウマ紛争と治療解決を扱う文化人類学的映像人類学関連研究会)し、関連追加文献調査、海外研究者との通信、オンラインによる海外関連研究会参加、さらに、直接間接に関連するテーマで行われた海外研究者の国内講演セミナーにて30分程度の指定英語討論を実施。論文印刷物1点を発表。 ジャマイカの精神科医故F・ヒックリング医博(以下FWH)が開拓した心理歴史誌的文化療法の展開史把握・再検討の過程で、以下の点につき関連文献追加把握と海外研究者への質問メールを通じて、検討考察。 ①1978年初頭、ベレビュー病院でFWHが開始した劇中心の集団療法は彼の文化療法の前身となるものだが、多いときは300人もの参加者がいて、多人数であっても人々が熱中するフロー体験があったと記されている。エスノヒトリー手法によるジャマイカ参加者の心理歴史誌の構築過程など、熱中要因は複数あげられるが、追加要因として、ジャマイカ黒人系の文化的身体性の特質を想定すべきと考え、文化人類学的把握を試み検討した。②この文化療法のreasoning circleの概念について、マッギル大学L・カーマイヤー教授らはラスタファリ運動の宗教儀礼のoverstandingから影響をうけたとするが、FWH自身の論文には言及が見当らない。この点につき、関係者にメールで問い合わせ、検討材料を探った。③この文化療法がカナダ等の西欧諸国で試行された事例報告を検討し、ジャマイカの黒人文化背景要因の独自部分を再考察。 先進国以外で展開する文化精神医学運動の2事例(ジャマイカとブラジル)の比較により、芸術療法概念の変容の様相、地域に入り込む芸術療法としての異同の特徴、ハイブリッド文化社会集団過程の葛藤と再統合の様相の特徴の検討を今年度までの成果範囲内で実施。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Covid19の蔓延状況からは下火になってきたものの、海外調査ジャマイカ、ブラジルなどでの海外調査が支障なくおこなえる状況にはまだいたっていないと判断された今年度の段階では、予算限界枠との関連とも相まって、本研究の志向する海外本調査の実施ができなかったため、この点で遅れが生じている。とはいうものの、そうした条件のもとで、できうる追加文献調査や本課題に直接間接関連する国内およびオンライン海外研究会に参加して関連論点を広げる手がかりをえた点、また、海外研究者とメール通信で意見交換や情報をえた点、さらに、今年度は指定討論者として英語でコメントし、本研究のこれまでの知見の一部を組み込んで討論できた点により、一定の意議ある展開がなされたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
新型感染コロナ指定伝染病期間があける前の前年度特例措置により、2024年度への延長申請認可されたため、今年度は昨年度実施できなかった現地調査を予算限界枠との調整により実施可能なものを行っていく。また、最終年度としての研究報告書、論文の作成をおこなう。 海外関連機関(マッギル大学文化精神医学部門、University of West Indiesに連なる精神医療関係機関、ブラジル精神医学関係機関)開催のウェビナー参加形式の研究 セミナーに今年度も適宜参加し、海外研究協力者(マッギル大学J. グズダー教授、L. J. カーマイヤー教授、N. ドソウザ博士、在ブラジルのV. ポルデウス医博、またJ. ウォルコットコット医博、トロント大学G.カプチック教授)とのメールやZoom連絡を通して行うやり方を今年度も適宜継続する。 また、2020年5月に他界されたF.ヒックリング医博の個人史(ラスタファリアン運動へ傾斜時期の動向や家系文化特徴等の伝記的諸資料)を最終年度の段階で追加検討整理し、心理人類学的生活史研究枠組およびジャマイカの社会文化状況変化の歴史的推移に照らしあわせ、文化医療人類学視座から分析・把握した結果を最終分析し成果として定着させる。感覚人類学の視点をさらに追補適用し,心理歴史誌的演劇的プロットの設定の重要性の理由、葛藤や対立を含む地域コミュニティの部分的再統合やコミュニティ変革の触媒となりえている理由を最終的に整理分析。ブラジルの動向については、ブラジルのV. ポルデウス医博による文化精神医学的研究論文の論点整理をさらにすすめ、個人史研究の総合的構成を完成させる。 以上を通じて、最終年度の研究報告と論文執筆を完成させる。
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Causes of Carryover |
新型感染コロナ状況が少し減じつつも継続したのが、2023年度の経過であったため、予定していた海外調査が実施できなかった事情があり、結果として、次年度使用額が生じた。次年度では残額分の限度内で可能なかぎり海外調査を主におこなう。9月-10月は、カナダ・マッギル大学での短期調査を計画。また、残額の限度範囲内で、心理歴史誌的文化療法を適用した現地小学校・高校などでの事例調査(10月にジャマイカ追加調査の日程がくめればカナダからジュマイカ・キングストン往復により航空費を縮減できうる)の可能性を探る。あわせて、ブラジルのV・ポルデウス医博企画の路上や浜辺での野外演劇実行に参加経験のある人がモントリオール在住の可能性があるため、インタビューを試みる。また、同医博が10月にモントリオール訪問する場合に直接面談によりブラジルでの演劇実行について追加質問を試みる(なお、残額の範囲ではブラジルでの現地調査は厳しい見込みになりつつあるが、10月にカナダからブラジル・サンパウロ往復の経費削減経路で合致する日程が組みうるかどうか、その可能性を探る)。以上の実施計画により、最終年度となる次年度の使用計画を組んでいく。
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