2019 Fiscal Year Research-status Report
The development of women's religious authority in the Niassene Tijaniyya, Senegal
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18K01204
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
盛 恵子 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (30566998)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イスラーム / セネガル / スーフィー教団 / ニアセン / 女性 / 男女の平等 / 女性の宗教的権威 / 宗教指導者 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニアセンの本拠地であるカオラックにおいて、イブラヒマ・ニアスの息子であるマーヒ・ニアスから、女性指導者についての公式見解を聞いた。ニアセンの長はティージャーン・ニアスであり、弟のマーヒ・ニアスは彼のスポークスマンである。マーヒによれば、イスラームは女児の生き埋めというアラビアの風習を禁止し、女性に権利を与えた。イスラームの根本原理は、男女平等である。預言者ムハンマドが教友に、妻アーイシャにイスラームについて訊ねるよう命じたハディースが存在するので、イスラームにおいては男女を問わず知識を持つ者が、持たない者を指導すべきであるという。また、元合衆国大統領カーターが設立したカーター・センターが、2015年にガーナのアクラで行った西アフリカ女性のエンパワーメントを主題とするフォーラムにおいて、ティージャーン・ニアスは、『コーラン』の33章35節は男女の平等を述べており、この節は女性が男性と等しい社会的・宗教的責任を持つことの根拠だと述べた。この演説のフランス語訳の原稿を、ニアセン幹部から提供された。2人の最高権威者の説明にはスーフィズム色がなく、西洋的な男女平等論にも通じるものだった。しかし他方で、ニアセン最初期の女性指導者として名高い、イブラヒマ・ニアスの2人の娘たちの関係者たちは、イブラヒマが娘たちを指導者にしたのは、彼女たちに専ら女性を指導する役割を担わせて、男女の隔離をより厳格に行うためだったと述べた。ニアセンにおける女性指導者の存在根拠と役割は、時代の要請によって、イブラヒマ・ニアスの時代とはいくらか異なるものになったようである。 ダカールの女性指導者たちは、家庭で子供を教育する女性の特性が、弟子を宗教的に教育する指導者の役割に適するとみなしていた。弟子たちの中にも、女性指導者を「母 yaay」と呼び、彼女は男女の弟子を我が子のように愛してくれるという見解が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の調査は、ダカールの女性指導者の弟子たちから見解を聞くこと、またカオラックで女性に関するニアセンの公式的な見解を聞くことを目標とした。 ダカールの弟子たちの女性指導者に対する評価は、高かった。ニアセンの本拠地カオラックはサールムの農業地帯にあるが、現在ニアセンが拡大しつつある首都ダカールでは、ニアセンの男性指導者・男性の弟子は、賃金労働者あるいは実業家として働く。したがって弟子の中には、自分の家族を養うのに忙しい男性指導者よりも、女性指導者の方がよい指導をしてくれると述べる者がいた。ダカールのニアセン信徒は、全国から仕事を求めて移住した、多様な民族からなる、新興住宅地の住人である。女性指導者たち自身も同様に、夫に伴ってサールムから出てきた。弟子たちの多くはダカールで、サールム出身の学校の友人・隣人を通じてニアセンを知った。民族的・文化的・宗教的背景が異なる人々が自由意志でニアセンを選び、彼らの擬制的な「母」である女性指導者を中心に信徒団を形成し、種々の宗教活動を行う。 他方、ニアセンの最高権威者たちから得た男女平等の説明は、前年度に女性指導者たちから得たスーフィズム的なものではなく、彼らの対外的な意図が窺われた。先述したフォーラムの出席者の中にはキリスト教徒や、ナイジェリアやガーナの、サラフィズム的傾向のある組織の所属者たちがいた。このような聴衆に対してティージャーン・ニアスは、スーフィズムの概念を使用することができないであろう。またマーヒ・ニアスは、ムスリムが住む国の天然資源の収奪を目論む欧米諸国が、イスラームは女性を抑圧する宗教だと宣伝して介入すると批判したが、「イスラームの敵」に対抗する彼の議論もまた、イスラーム一般の本質論とならざるを得ないだろう。 以上の成果を得たが、今年度は女性指導マリヤム・ニアスとサラフィズムの調査はできず、来年度に持ち越された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に行うことのできなかった、イブラヒマ・ニアスの娘たちの中で最も有名な女性指導者であるマリヤマ・ニアスと彼女の学校について、またサラフィズムにとっての女性の地位と役割について、調査する。 マリヤマ・ニアスとその夫であるオマール・カンは、ダカールにおける最初期のニアセンの指導者であり、彼らを中心として、ダカールにニアセンが定着・発展したとされる。また、ダカールに住む女性指導者たちの役割の重要性は、ダカールの都市的状況と関係があると思われるので、ダカールの発展についての資料を探す。 さらに、セネガルでは依然としてムスリムの多数派がスーフィー教団に所属するものの、近年、特有の服装でそれとわかるサラフィストが、ダカールで増加している。ニアセンの女性指導者の存在に対する、セネガルのスーフィー教団すなわち、ティジャーニー教団のアルハジ・マーリク・スィを祖とする集団、ムリッド、そしてライエンの指導者たちの否定的な見解は、初年度ですでに確認した。しかしサラフィストの女性に対する見解に関しては未調査なので、次年度に調査する。 また今年度にカオラックで、ダカールだけでなくサールム地方の農村にも女性指導者たちが存在するとの情報を得たので、可能な限り彼女たちの活動の調査も行いたい。これ以外にも、実際の調査の過程で明らかになるであろう諸問題について、適宜調査を行う。
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Research Products
(1 results)