2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01208
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 哲志 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (50401013)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 財団 / 法人 / 教会 / 遺言 / 信託 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である今年度の研究内容は以下の3点から成る。第一に、《目的① 財団理解の歴史的系譜の探求》に関して、レモン・サレイユの財団論を取り巻く言説空間、とりわけ1905年の政教分離法前後の信徒団体の法的把握をめぐる争いを歴史学的に再構成することに多くの時間を費やした。他の課題での在外研究の空き時間を用いて、パリカトリック学院図書館所蔵の史料を集中的に渉猟・精査した。その際、ある意味では想定どおりではあるが、今後の補充の必要を意識させられたのは、ドイツ経由の各種法人理論との接合の如何である。その参照と意識的な不参照との対抗が、当時の教会組織論上の具体的論点、特に礼拝目的法人の定款記載内容の異同に反映されているのではないか。理論的記述には至っていないがこうした仮説を得られたこと自体が大きな成果である。 第二に、《目的② 財団の現代的利用形態の解明》に関しては、期間延長により同時並行して進めることとなった別課題との調整の必要もあり、遺言による財団設立に関する法規制の把握を先行させることとした。次年度以降に掘り下げるべき課題として認識したのは、既存財団内に目的財産を設ける形で設立される他法人管理財団に関して、財団の目的が遵守されさえすれば、「遺言において受入財団の特定を要しない」という点である。非常に初歩的でありながら研究開始時には了解できていなかった事項であるが、これは、設立行為を担う当事者に裁量の余地が残されることを意味しており、本研究課題が取り組む現代における財団法制の柔軟性の一要素として特筆される。 第三に、交付申請時における応募時からの変更点として、比較対照として信託をも検討対象に含め、フランス法系でありながら信託実務が発展しているケベック法を参照することとしていた。この点につき、モントリオール大学での国際学会への参加の機会を利用して諸教授との意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他の課題とのエフォートの調整という難題に直面しており、本課題に割かれた時間が十全あったと誇ることはできない。事実、本課題にストレートに直結する公表成果を得られているわけではない。とはいえ元来、本年度は、次年度以降の調査の前提として歴史的課題・現代的課題の双方について理論的省察を深めることに充てる計画であった。前者について仮説の析出に至ったこと、後者について想定外の論点を獲得したこと、いずれも顕著な進展であり、おおむね順調との自己評価を付する。
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Strategy for Future Research Activity |
中間年度である次年度は、課題①につき論文執筆の開始を、課題②につき実態調査を行うこととしており、今年度以上に効率的な時間配分に留意しなければならない。とりわけ、既に膨大といえる史料・資料の参照・検討方法の簡易化が課題である。タッチペンでの書き込みが可能なタブレット端末の導入を検討する。他方、上述に示唆したように財団法制には条文からは必ずしも明らかでない規律が多数含まれていることが了解された。研究者による学術的説明が相対的に少ない分野であることが要因であり、財団実務の一層の解明が要請される。実態調査に向けては、聞き取り対象者の慎重な精査を要することは当然であるが、学説の不在はそもそもの言語交換を難しくするであろう。克服は容易ではないが、たとえば、実務家が用いるオンライン書式集で標準的なものを特定し、(高額の支出を甘受して)そのライセンスキーを購入することも考えられる。
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Causes of Carryover |
所属機関での用務のため海外出張期間を短縮したことによる。今後の研究方策に記した効率化のための物品購入費用に充てる。
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[Book] 『〔新版〕法学の世界』「フランス法ーー「異なる法」を学ぶ」2019
Author(s)
南野森,原田昌和,和田俊憲,森肇志,興津征雄,大内伸哉,得津晶,垣内秀介,緑大輔,安藤馨,飯田高,齋藤哲志,溜箭将之,永野仁美,神山弘行,島村健,大久保直樹,武内謙治,水元宏典,横溝大,小島立,成原慧
Total Pages
289 (164-177)
Publisher
日本評論社