2018 Fiscal Year Research-status Report
Toward a Construction of Normative Theory of Immigrants' Social Inclusion
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18K01210
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
横濱 竜也 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (90552266)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷口 功一 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (00404947)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 移民正義論 / ナショナリズム / 多文化主義 / 社会的排除 / 立憲主義 / 公私区分 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、主として以下の3つの作業を行った。(1)移民の社会的包摂の規範理論構築のために、既存の諸議論を批判的に検討した。(2)移民の社会的包摂を困難にしている主要因の一つ、移民と受入国のネイティブとの間の宗教の違いについて、とくに立憲主義と宗教の関係から考察を深めた。(3)シンガポールにて、同国における移民政策と移民の社会的排除の実情を明らかにする実地調査を行った。 (1)について、①平成30年7月の第1回IVR日本支部国際会議での英語報告及びそれに基づく論文、②同年11月の日本法哲学会学術大会での報告で、それぞれ移民正義と政治的責務論との関係、移民の社会的包摂と平等論の関係に関して、既存の議論蓄積の批判的検討を行った。その要点をまとめれば、中長期に滞在する移民が、受入国社会のメンバーとして扱われるための規範的条件、これを解明する手がかりが、敬譲論による政治的責務論から得られる見込みがあること、受入国における移民の社会的排除を克服する規範的指針として、関係的平等主義が有望な議論の一つだということである。 (2)について、平成30年6月の宗教法学会及びそれに基づく共著論文で、成果を公にした。欧州の現状などを踏まえつつ、移民の信仰が、受入国の立憲主義と深刻に衝突する局面で、移民の受入れ、また社会統合がいかになされるべきかを、多文化主義の批判的検討などを踏まえつつ行った。 (3)について、平成31年2月、シンガポール人材省、移民労働者支援NPO、シンガポールの移民政策の理論的検討を行っているシンガポール国立大学教員、それぞれへのインタビューを中心として実地調査を行った。シンガポールの就労ビザの一つWork Permit下にある低賃金移民労働者(移民家事労働者を含む)の社会的地位の脆弱さとそれに対する対応とが、同国の移民政策の評価において一焦点をなすことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究実施計画は、基礎作業と実地調査の二つの柱からなり、前者は、(1)望ましい移民包摂のあり方を条件づける国家のメンバーシップの規範理論とはどのようなものか、政治的責務論の研究蓄積に照らしつつ、基礎的見地を示す。(2)移民正義論の諸見解を現代平等論の議論状況、とくに運平等主義と関係的平等主義との論争を踏まえ、精査する。(3)現在の移民包摂問題において、もっとも喫緊かつ困難な課題の一つである、国家の中立性と宗教の関係について、規範的議論を行うというものであった。これらについては、一通りの作業と成果の対外的発信を行った。平成31年度における移民正義論の本格的展開のための準備は整っている。 他方、後者について、シンガポールでの実地調査は成功裏になされた。ただし、シンガポールの移民包摂の実相は、就労ビザシステムだけでなく住宅政策や社会保障政策等をも踏まえなくてはならないことも明確になった。この点に関する追加的な調査を平成31年度以降に計画したい。さらにシンガポール国立大学法科大学院教員のインタビューで、移民の社会統合と宗教の問題について、シンガポール、マレーシア、インドネシアなど東南アジア諸国の状況をも踏まえて、より立ち入った検討を行う必要があることも明らかになったため、この点に関するさらなる意見交換の機会をあわせて設けたい。 国内での実地調査については、未だ遂行できていない。1つの要因は、シンガポールでの調査準備に多くの時間と労力を要したことであるが、それ以上に重要なのは、移民包摂のための取組みは、都府県や市町の実情や歴史的経緯を反映した形でさまざまな制度的相違があり、どこを調査対象とすべきかについて精査する必要があったためである。しかし、平成30年度中にこの点に関する検討を済ませており、平成31年度に30年度に計画していたものを含めて、実地調査を行うこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
既にある研究実施計画に加えて示すべき推進方策を、以下にまとめる。 (1)シンガポールでの再実地調査:シンガポールの移民包摂の実相を住宅政策や社会保障政策等をも踏まえて十分観察し評価するために、再度調査を行うこととする。調査のための費用は、国内調査旅費や学会報告旅費等を節減することで捻出する。 (2)国内調査:今年度は国内の実地調査を重点的に実施する。その際、移民包摂支援の実施主体、また移民出身国による包摂の実態の相違にとくに注目する。 (3)シンガポール国立大学教員との意見交換:低賃金移民労働者の望ましい包摂のありようについては、意見交換を継続する。また、移民の社会統合と宗教との関係についても同教員などと、より専門的知見を踏まえたやりとりが必要なため、研究組織外の研究者や学会との協働も視野に入れて計画を組む。
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