2019 Fiscal Year Research-status Report
Toward a Construction of Normative Theory of Immigrants' Social Inclusion
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18K01210
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
横濱 竜也 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (90552266)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷口 功一 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (00404947)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 移民正義論 / ナショナリズム / 多文化主義 / 社会的排除 / 立憲主義 / 公私区分 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、主として以下の作業を行った。(1)スイス・ルツェルンにて開催された第29回IVR世界大会にて、移民の社会的包摂の規範理論と政治的責務論との接続を図る報告・参加者との意見交換を行った。(2)政治的責務論関連では、正義の自然義務論を批判し、国民相互の道徳的紐帯の重要性を確認する書評を公刊した。(3)日本における移民の社会的包摂のための制度的枠組みに関し、地方自治との関係を論じる論文を公刊した。(4)移民問題と宗教との関係については、昨年度の学会報告を踏まえて多文化主義・立憲主義に関する批判的考察を行う論文を単行本に寄稿するとともに、(5)シンガポールにおける政治と宗教の関係について考察するシンガポール国立大学教員の重要な論文の紹介を公刊した。 (1)については、ヨーロッパとシンガポールにおける移民の社会的排除の現状を概観したのち、政治的責務論によりシティズンシップ概念を再構成し、それを通じて社会的排除を克服しうるメンバーシップのあり方を展望した。(2)では、政治的責務が各自の属する国家に対する個別的義務であることにこだわる道徳的意義を論じた。これは(1)のメンバーシップ論につながるものである。(3)は、とりわけ日本では外国人受け入れが真正面からの移民政策としてなされてこなかったことが一要因となって、外国人の社会的包摂の主たる任務が地方自治体とその外郭団体に委ねられてきたことを批判的に検討するものである。 (4)については、立憲主義における公私区分とそれを裏付ける普遍主義的理念とが、移民の宗教的教義と衝突する場面において、多文化主義では移民の望ましい社会的包摂が得られないことを指摘した。さらに(5)は、シンガポールにおける多人種主義とその下での宗教多元主義的政策とが背景とする立憲主義理解について論じた業績の紹介であり、本研究においても基盤となる問題関心を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究業績の概要】にて示したように、移民の社会的包摂の規範理論構築に必要な、既存の議論蓄積の精査と研究代表者・研究分担者の代替的議論の提示・公表に関しては、順調に進展している。 しかし、国内の諸地域における実地調査、またシンガポールにおける実地調査(シンガポール国立大学教員との意見交換、移民支援NPOでの聞き取り調査)に関しては、令和2年2月~3月に計画し、そのための事前打ち合わせも概ね済んでいたところ、新型コロナウイルス流行、また国内出張の自粛・シンガポールの入国規制強化に伴い、調査の実施が不可能となった。令和2年度に延期せざるをえない。また、シンガポール国立大学教員を日本で開催される学会に招聘する計画も、ほぼ準備は済んでいる状態であったが、学会自体の開催が困難であることにより、頓挫している。 オンライン会議システムによる調査への変更を含め、計画完遂のための手順について見直しが必要である。 加えて、シンガポールにて移民労働者寮で新型コロナウィルス感染者が多く発生したことは、同国のみならず日本や欧米における移民の社会的排除とその克服のあり方を解明していくうえで、重要な課題を示すものでもある。簡単に指摘するならば、以下のようになる。(1)望ましい移民制度を論じるうえで、安全保障の視角が不可欠であることをあらためて確認しなくてはならない。また感染症リスクのコントロールの観点から、グローバル化を批判的に検討することが必要である。(2)シンガポール市民・永住者間の感染拡大が一段落つき始めていた時期に、移民労働者寮にてクラスターが発生したことは、市民・永住者と移民労働者のあいだの階層性を如実に明らかにしたものとも思われる。この点についての考察と規範理論構築も、本研究はあわせて取り組まねばならない。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】を踏まえて、既にある研究実施計画に加えて示すべき推進方策を、以下にまとめる。 (1)実地調査のオンラインでの実施:国内の地方自治体、シンガポールの移民問題研究者、移民労働者支援NPOとの間では、すでに研究協力体制がかなりの程度整っている。しかし、調査地に赴く機会を十分に得られるかどうか不透明であるため、代替的に、オンラインでのインタビューや意見交換を実施していくことにする。 (2)令和2年度の学会開催状況を踏まえた研究成果の公表:現状、令和2年度前半に開催予定の各学会学術大会等については中止を余儀なくされているものが多くあり、そのなかには本研究の研究成果公表の場として計画していたものも含まれる。当座のところは、学術論文として公刊する作業を中心に実施し、オンライン開催の大会にて報告の機会を得られるように尽力することとする。 (3)感染症対策と移民の社会的包摂との相関:【現在までの進捗状況】に記した感染症対策における移民の扱いについては、対策の射程とメンバーシップとの相関、感染症対策に要する諸資源の正義に適った分配(医療資源のみならず、外出規制下の生活環境や密集を余儀なくされる住環境等を含む)等の問題がより前景化されてきている。これらの問題に取り組む研究を、令和2年度中にまとめることとする。
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