2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on constitutional adjudication under the authoritarian regime in Russia
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18K01212
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐藤 史人 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50350418)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロシア / 憲法裁判 / 憲法アイデンティティ / 違憲審査基準 / 憲法改正 / 立憲主義的独裁 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、7月にロシア連邦憲法が大改正され、本研究課題のテーマである、ロシア憲法の「ポピュリスト」的側面が改めてクローズアップされた。そこで、①憲法改正に伴って、憲法学界で広く論じられた93年憲法の特質とその後の憲法体制の変容をめぐる議論を整理し、カール・シュミットの独裁論を下敷きとしたメドシュエフスキーの「立憲主義的独裁」論などを検討しつつ、ロシアの現在の憲法体制の「ポピュリズム立憲主義」的モーメントについての私見をまとめた。また、②この憲法改正を通じて、改めてロシアにおける憲法アイデンティティをめぐる議論が活発化した。この点に関連して、ロシアの学界において中核を担う比較的若い憲法学者の憲法裁判分析を検討し、彼らがロシアの憲法アイデンティティをどのように読み解こうとしているのかを明らかにすることによって、憲法裁判所の判例動向とそれに対するアカデミアの批判的営為との対立構造を析出した。さらに、本年度は、ロシアにおいても新型コロナウイルスのパンデミックに対し、中央および地方政府によって様々な施策がとられたが、その過程を通じて、ロシアにおける権威主義体制の特質ないし弱さが浮き彫りになった。この点について、③首都モスクワ市を中心とするコロナウイルス対策の特徴を法的側面から明らかにすると共に、そこで導入された外出禁止措置、外出許可制度をめぐる訴訟を跡づけ、ロシアにおける違憲審査の抱える問題点を確認した。また、コロナ対策をめぐる中央地方関係について検討し、「権威主義体制における危機時の権力の脆弱さ」という観点から、ロシアの統治機構の特質を分析した。さらに、④憲法アイデンティティ概念との関わりで、昨年度に引き続きロシアにおける歴史認識と法に関する問題を取り上げ、通常裁判所の判例を網羅的に検討したほか、⑤ヨーロッパ人権裁判所とロシアの関係に関する論考をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、昨年に引き続き、ロシアの学界における違憲審査論の動向を分析することによって、憲法裁判所の保守化とそれに対する学界の「パフォーマティブ」な対応とを析出することにより、ロシアのポピュリズム立憲主義をめぐる対立構造を析出することに成功し、本研究課題の遂行という点で満足のいく新たな着想を得ることができた。また、ヨーロッパ人権裁判所のダヴィードフ判決を詳しく分析することにより、欧州人権裁判所とロシアの関係についても、実証的な角度から議論を補強するとともに、新型コロナ対応という観点からは、ロシアの権威主義体制に関する新たな省察を得ることができた。 他方で、本年度は新型コロナウイルスの拡大に伴い、オンデマンド資料の作成などの授業負担の増大によって研究に割くことのできる時間が減少したほか、現地への渡航が不可能になることで、予定していた研究の一部を進めることができなかった。特に、経済・社会領域における憲法裁判所の活動の分析については、十分な結論が得られるところまで研究を進めることができなかった。また、サンクトペテルブルクで予定されていた憲法アイデンティティをめぐるThe International Association of Constitutional Lawの研究大会が延期され、ハンガリーについても現地の実務家から近年の動向を確認する機会が得られないなど、比較憲法の視点からロシアを相対化するための作業を十分に行うことができず、期間内に研究を取りまとめるには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、本年度に完遂できなかった経済・社会領域における憲法裁判所の活動の分析をすすめる。とりわけ、社会国家原則ないしは社会的連帯をめぐる憲法判例を引き続き検討し、この領域におけるロシアの憲法実務の特徴が、社会主義時代の憲法伝統、戦後に西欧で形成された社会国家原則、さらに東中欧で体制転換後に支配的になった新自由主義的な社会権の理解との関係で、どのように位置づけられるのかを検討する。第二に、ロシア憲法の動態を相対化する観点から、ハンガリー憲法の近年の動向を検討する。第三に、本年度は本プロジェクトの最終年度にあたるため、研究成果のとりまとめを行う
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Causes of Carryover |
本年度の研究は基本的にこれまでに蓄積された資料を利用して、研究を遂行した。また、予定していたハンガリー共和国ブダペスト市(エトヴェシュローランド大学法学部等)への調査旅行がCOVID-19の影響で実施できなかった。状況が安定し現地への渡航が可能になり次第、情報収集を現地にて実施する予定である。
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