2019 Fiscal Year Research-status Report
簡易裁判所における司法書士代理の全国的状況及び地域差についての研究
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18K01216
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
馬場 健一 神戸大学, 法学研究科, 教授 (30238224)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 簡裁代理 / 認定司法書士 / 過払金返還請求訴訟 / 司法統計 / 専門家集団の地域的特質 / 実証研究 / 弁護士代理と司法書士代理 / 西日本と東日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成司法制度改革によって導入された認定司法書士による簡易裁判所の通常民事訴訟事件における法廷代理は,日本の裁判利用にどのような変化を与えたのであろうか.それは本人訴訟を減らしたのか,訴訟需要を喚起したのか,弁護士による代理事件を奪ったのか.また司法書士による代理事件に地域差はあるのだろうか,あるとすればそれはなぜだろうか.このような観点についての議論はあまり聞いたことがない.本研究はこのような問題を,司法統計等に基づき,実証的な観点から取り上げようとする.具体的方法としては,全国及び地方別の司法書士代理の実情を,実数や人口比,弁護士代理や本人訴訟との比率等の観点から分析する.また地域ごとのデータについては,各種の地域における社会統計データとの突き合わせなども進める. 全国的傾向としては,制度導入以前から進行しつつあった多重債務事件及びそれに伴う過払金に基づく不当利得返還請求訴訟の隆盛とともに,簡裁司法書士代理は一時的に大きな伸びを見せるが,現在それは収束している.またそれは,同期間における弁護士の簡裁事件の扱いの増加との相乗的に働き,本人訴訟の比率を減らすことに寄与しているように思われる.このことから弁護士代理と司法書士代理は全国的に見ると,現状までのところ仕事を奪い合うようなゼロサム関係にはなく,それぞれに職域を広げあうプラスサムの競合関係にあるように思われる. 他方,都道府県ごとにみてみると,司法書士の簡裁代理については大きな地域差が存在する.これまでの司法書士簡裁代理の大きな部分を占めてきたのが,原告の側にのみ代理人が付くことが通常の過払い訴訟であったため,その訴訟類型に即して規定要因の探索を試みる.結論として,地域ごとの多重債務問題の深刻度に加え,それに対する司法書士と弁護士それぞれの側の地域ごとの取り組みの姿勢の差異などが重層的な規定要因となっていることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の沖縄(本島,離島)や大阪での司法書士の聞き取り調査に続き,2019年は道東(釧路,網走,帯広)に出向き,現地の司法書士の方々から話を聞いたほか,釧路司法書士会を訪問し,地方単位司法書士会として本件についての意見を聴取した。また2019年5月に千葉大学で行われた日本法社会学会年次学術大会では,本研究に直接関係する「法専門職と簡裁代理-簡裁民事訴訟・簡裁実務のこれまでとこれから-」と題して,本研究に直接関係するミニシンポジウムを開催しコーディネーターをつとめた。本ミニシンポでは,研究者として,司法書士をこれまで研究対象としてきた,大阪大学の仁木恒夫氏(法社会学),司法書士の谷嘉浩氏(大阪司法書士会),弁護士から小川達雄氏(京都弁護士会),簡裁実務経験者として小林克美氏(元簡裁判事)に参加をお願いし,当日は多くの聴衆を得,各自活発な報告と意見交換が行われた。聴衆には,民事訴訟法の権威の谷口安平氏(京都大学名誉教授)もおいでになり,シンポの後に『非常に面白かった」との感想を頂いた。またこれまでの調査とデータの分析結果,及びこのミニシンポジウムの成果をもとに,日本法社会学会の年一度発行の学会誌『法社会学』86号に,「司法統計から見た簡裁司法書士代理の実情と機能,その背景」と題した論考を投稿した。二名の査読担当者の審査を経て,採用が決まり,2020年3月に発行された(161から182頁)。ちなみに査読者の一方は,一度目に最終製の必要ない『採用」意見であり,他方の査読者は,「本論文は、執筆者の記載する通り、司法書士代理率の規定要因を、主に司法統計にもとづいて探索的に検討した内容で、先行研究のない中、試行錯誤の結果として、まとめられたものである。」とした上で,一部修正を要求し,それに従った結果採用された。本研究はこのように予定を超えた進捗をしており十二分に満足いくものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度として,これまでのインタビュー調査や司法統計のデータ分析を更に整理し,深めた検討を行うほか,インタビュー調査としては,過疎地で遠隔地である高知県を対象に,現地の司法書士や単位司法書士会と連絡を取り,これまで同様の調査を行う予定である。さらに,山梨県でも同様の調査を行う予定である。こちらについては,現地の司法書士に関しては,全国の司法書士とネットワークを持つ司法書士の谷嘉浩氏(大阪司法書士会)にすでに紹介を頂いたインフォーマントを得ている。なお山梨県は,これまでで簡易裁判所の司法書士代理が人口比率からして最も少ない地域であり,『法社会学』86号掲載の「司法統計から見た簡裁司法書士代理の実情と機能,その背景」という論考では,その原因,規定要因についての仮説的検討をしておいたので,それを検証する意味がある。またこの論考を日本司法書士連合会や各地の司法書士単位会,その他司法書士代理の経験を有する各地の司法書士の方,すでにインタビューを終えた司法書士関係者等にお渡しし,フィードバック等を期待するほか,インタビューを行うなど交流する場合はその場において意見交換をする予定である。ただしこれらの現地調査は,現在の新型コロナウイルス問題が終息しない場合は実現が難しくなるおそれがあるため,その時期については未定である。また終息までの期間が長引いた場合に備えて,電話やアンケート用紙などによる調査などに変更したり,相手方が用意がある場合は,インターネットを通じたオンライン面接などを利用することも考えている。このようにデータをさらに蓄積するとともに,分析を深め,既発表の論考や既開催の学会ミニシンポジウムをふまえつつ,更に特に最終年度の次の年度の学会での個人報告やミニシンポジウムの機会を利用して最終報告を行うことを検討するほか,それらを全て踏まえた最終的な学術論文の執筆を予定している。
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Causes of Carryover |
1155円と僅かな額であり,見積もりと実金額の誤差の範囲内と考える。書籍の購入等に使用する予定である。
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