2019 Fiscal Year Research-status Report
"Slave labour" and locatio conductio in Ancient Rome
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18K01219
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
五十君 麻里子 九州大学, 法学研究院, 教授 (30284384)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 解放奴隷 / 扶養の遺贈 / セーフティネット / 働き方改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度から引き続き、扶養(alimenta)の遺贈について規定する学説彙纂34巻1章を検討し、その受遺者の多くが解放奴隷(libertus libertaque)であることを確認し、さらに一つ一つの法文を検討した。その結果、従来は、解放奴隷が解放後も主人の元にとどまっていたのは、主人が解放奴隷から奉仕(opera)を搾取する目的によると考えられてきたが、むしろ解放奴隷に現物で衣食住を提供する便宜ではないか、と新たな見解を得るに至った。さらに厳密には自らが解放した奴隷でなくとも、より広い範囲の解放奴隷たちに生活の糧を提供するのが一般的であった可能性を見出した。この研究成果を2019年9月4日エジンバラにおいて開催された国際古代法史学会にて"libertis libertabusque relicta alimenta"と題して英語で学会報告し、好評を博した。またこの内容は2019年12月発行の『法政研究第86巻第3号』にて「古代ローマにおける解放奴隷の扶養に関する一考察 ―Q.C.スカエウォラ法文学説彙纂三四巻一章一六法文一項を手掛かりに―」として日本語で論文を公表した。 さらに「職場」としての家(familia)が、ローマにおいて解放前後を問わず生活弱者=奴隷のセーフティネットの役割を果たしていたことに着目し、これを水野紀子教授の見解を取り入れつつ、日本の前近代から戦後に至る家族法の変遷との比較を行った。その成果は、セーフティーネットが欠落している日本の現状と合わせて、12月6日済州国立大学にて行った招待講演「日本における近代家族法の変遷とその負の遺産」で発表した。 なお、3月14日第1回日本ローマ法学会にて学説彙纂34巻1章3法文に関する報告を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため学会が中止となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画以上に進展しているというよりも、計画時の想定とは違う研究方法により、研究課題に迫ることができることが判明したため、当初の計画を変更して、変更後の計画に基づき順調な成果を得た。 すなわち、当初は家(familia)内の奴隷(servus)の位置付けを検討することで、雇用契約とは異なる労働力提供のメカニズムを探り、これを現代日本の働き方改革に結びつけるというものであった。しかし、法的にはfamiliaに属していないはずの解放自由人(libertus libertaque)の存在に着目することにより、単なる労働提供に止まらない、人的セーフティーネットとしてのfamiliaの機能が明らかとなり、より根本的な「職場」の機能を問い直すことができると考えるに至った。そこで、2019年度は2018年度に引き続き解放奴隷の地位と法的取り扱いについて研究した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き研究計画変更後の計画に従って、解放奴隷の扶養に着目しながら、古代ローマ法における家のセーフフティネットとしての機能を解明していく。そのためには引き続き学説彙纂34巻1章の法文を中心に、生活弱者保護が徹底的に追及されている具体例を詳細に検討する。また奴隷・解放奴隷とlocatio conductioの関係も学説彙纂19巻2章の分析を通じて解明する。さらにその成果を2021年1月にサンティアゴ(チリ)にて開催される国際古代法史学会にて報告する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年9月6日に父が亡くなったため、ヨーロッパ滞在を急遽切り上げて帰国しなくてはならなかったこと、また、2020年3月以降は新型コロナウィルス感染拡大の影響で、出張をキャンセルしなければならなかったことなどから、計画よりも旅費の支出が少なかった。2020年度は夏にヨーロッパ研究滞在、2021年1月に南米での学会出席を予定しているため、パンデミックが収束すれば、当初の計画より多くの旅費が必要となるものと考えられる。また、人件費も資料整理のために使っていきたい。
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