2018 Fiscal Year Research-status Report
司法アクセスの拡充における弁護士費用と裁判手続のあり方に関する法と経済学研究
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18K01221
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
池田 康弘 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (70304714)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 大輔 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (40436499)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 法と経済学 / 裁判 / 司法アクセス / ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度にはまず,司法アクセスを考える際に非常に重要な,弁護士をはじめとする法曹の質についての問題を扱った。具体的には,日本の法曹の質に関する代表的な先行研究であるJ. Mark Ramseyer and Eric B. Rasmusen, “Lowering the Bar to Raise the Bar: Licensing Difficulty and Attorney Quality in Japan”を検討し,その成果を「難易度を下げると質が上がる!?―日本の司法試験の難易度と法曹の質」として公表した。また,“Judge's Bias and two Judicial Systems”と題する報告を国際学会Italian Society of Law and Economics Associationで行った。これは,当事者主義と職権主義という2つの裁判手続きが,訴訟当事者の行動に与える影響について分析したものである。これまであまり裁判の経済分析モデルに組み込まれてこなかった「裁判官」というプレイヤーを組み込んだのが,特に本報告の特徴であった。学会では,職権主義とゲーム的状況の符合についてのコメントや質問があり,今後の研究の進展に役立てることができた。そのほか,司法アクセスとの関係で重要な要素として損害賠償の額の問題があるが,これについては,法と経済学会やThe Inaugural Congress of East Asian Sociological Associationで報告を行った。これらにおいては,日本と米国で民事裁判の損害賠償額に関する人々の法意識を比較した場合,想像以上に大きな差がありそうであるということを報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は本研究の初年度であり,本研究の基礎的な部分について検討を重ね,着実に足場を固めることができた。具体的には,本研究のテーマである司法アクセスについて,国際学会で複数の報告を行い,国内学会でも報告を行うことができている。そしてそれをもとに現在論文を執筆・投稿している段階であり,2019年度においてその一部を成果として公表できる見込みがついているため,おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は特に、以下の研究を中心に行う予定である。 第一に,裁判手続きを訴訟当事者のインセンティブの観点から分析する。具体的には,裁判手続きについて,当事者主義と職権主義とでどちらが訴訟当事者にとって適切であるかという問題を扱う。その際には,訴訟当事者(原告と被告),および裁判官という裁判に関与する各主体間の相互依存関係を考慮に入れた,裁判の手続き自体の実質的なあり方について特に重視する。これについては2018年度学会報告を行いそれを基にして現在論文を執筆中であり,2019年度における完成を目指す。 第二に,弁護士費用保険の普及に際してしばしば言及される濫訴についての分析を行う。その分析にあたっては,裁判における原告と被告の間の戦略的な行動や,損害賠償額との関係を考慮に入れたモデルを構築する。これについては現在論文を投稿中であり,2019年度における公表を目指す。 第三に,裁判における当事者の戦略的行動を考慮した場合の,損害賠償の適切な額についての分析を行う。従来の法と経済学の分析では,損害賠償の適切な額を考える際に,裁判手続きにおける原告と被告の戦略的な行動をモデルに組み込むことはそれほど行われていなかった。本研究ではそれを組み込むことを考える。これについてはまだ分析を始めた段階であり,2019年度における学会での報告を目指す。
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Causes of Carryover |
国際学会に初年度に参加する予定だったが,これを次年度に参加することに変更したため,残額が生じた。本年度に国際学会に参加することで,これを使用する予定である。
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Research Products
(7 results)