2019 Fiscal Year Research-status Report
熟議民主主義において公正な結論を導く〈法的思考〉形成の研究
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18K01222
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
菅原 寧格 北海学園大学, 法学部, 教授 (20431299)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 熟議民主主義 / 法的思考 / 法の妥当根拠 / コミュニケーション / 権利 / 法思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は昨年度に見出した、熟議民主主義を支える基盤であると同時に〈法的思考〉が作用を及ぼす実践であるところの「コミュニケーション」の理論研究を継続し、「コミュニケーション」の担い手にとっての〈法的思考〉のあり方を引き続き多面的に探った。 具体的な活動としては、①第52回北海学園大学法学部カフェ「LGBTをめぐって起きていること――札幌、日本、そして世界――」(話し手:鈴木賢(明治大学)/聞き手:石月真樹・井上睦(北海学園大学)(北海学園大学、7月13日))を企画・開催し、セクシュアルマイノリティが置かれている差別的状況と権利保障の在り方を問題化する際に生じる困難とを確認し、多数決民主主義がもつ限界と熟議の可能性について検討した。 また、法が「コミュニケーション」の担い手に対して関わり合わざるを得ない事態を、なぜ法が義務づける力を持つのかという伝統的な法の妥当根拠論研究と関連づけた上で研究を発展させ、②論文「法の妥当根拠論とその現代的局面」と③羅文媛訳「法的妥当性根據論與其現代的局面」(いずれも『台日法政研究 第1 期』國立勤益科技大學日本研究中心、2019))として整理したほか、④「要石としての〈竹下法哲学〉:竹下賢『法哲学の効力根拠』」(『法哲学年報2018――法多元主義・グローバル化の中の法――』有斐閣、2019)を発表した。 これまでの研究を振り返るとともに次年度に向けたまとめとしては、②と③に対する評価を得たことから⑤「法的思考へのアプローチ」(台湾國立勤益科技大学日本研究中心、12月13日)と題し、招待講演を行う機会を得た。 次年度は研究全体の最終年度にあたることから、これら得られた成果を改めて取りまとめ、論文として整理し発表するとともに、熟議民主主義において〈法的思考〉が討論に加わる当事者の指針となり得るような理論的成果として完成させることが目標である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も、〈法的思考〉が作用を及ぼす実践であるところの「コミュニケーション」の理論研究を継続して行った。その結果、熟議民主主義を支える「コミュニケーション」の担い手にとっては、法がどのようなものとしてあり得るかという問題を、法の妥当根拠論という従来の法哲学研究のリソースと関連づけることが、熟議民主主義における〈法的思考〉の問題を検討する際には有望であると確認された。この観点は、上記①の北海学園大学法学部カフェを通じて深められたが、②から④で示された理論研究を準備し進めていくプロセスとの往還によって可能になった。 また、⑤で示された招待講演の機会を通じて、研究全体として振り返ってみた場合、ほぼ想定していた通りのペースで進捗してきたといえるし、最終年度に向けた研究方針についても、大きな修正や変更をすべき事情が生じてない。 研究全体の進捗状況としては、その目標をおおむね達成し順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、熟議の基盤になると同時に〈法的思考〉が作用を及ぼす実践である「コミュニケーション」が、伝統的な法哲学的問題である法の妥当根拠論との関係から見直されたことによって、その様相が多面的に動態的に把握されるべきであることが確認された。 研究全体の最終年度にあたる次年度では、これまでの研究を補完する文献研究も継続するが、得られた研究成果の整理と発信を主眼とし、熟議民主主義の当事者が討論を行う際の指針となり得るような〈法的思考〉のあり方を示す。 また、感染症拡大の影響下ではあるが、前年度に続いて可能な限り「北海学園大学法学部カフェ」などの機会を利用し、本研究テーマに関心を持つ社会一般との間で研究成果の共有を図りつつ、研究の成果を公開し還元していく。
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Causes of Carryover |
研究図書や購入を予定していた消耗品などの一部につき、市場価格よりも安く販売される機会を利用し購入することができたため、次年度に必要となる可能性がある研究費に充当することにした。
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Research Products
(4 results)