2022 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Legal Thinking as Fairness in Deliberative Democracy
Project/Area Number |
18K01222
|
Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
菅原 寧格 北海学園大学, 法学部, 教授 (20431299)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 熟議民主主義 / 法的思考 / 価値相対主義 / 法感情 / コミュニケーション / 法思想史 / 法の妥当根拠 / 権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、今日の熟議研究の源流にあたる思想と既存の法的思考論を再検討し、多数決に過剰な依存をすることなく公正な結論を目指す熟議が成り立つ条件を探ることであった。その成果は主に以下の三点である。 第一に、20世紀前半に現われたドイツ思想に着目することによって、これが熟議民主主義を支えるコミュニケーション理論の基盤になり得ることを確認した。具体的には、H.ケルゼンやG.ラートブルフなどの新カント学派が法の妥当根拠に関する問題を哲学的に論証することで突破しようとしたのに対し、M.ウェーバーやK.ヤスパースは、この問題を価値に関する討議やコミュニケーションが実践的に取り組むなかで解決すべき課題として捉えていたことを明らかにした。 第二に、このようなドイツ思想を背景として成立するコミュニケーション理論であれば、熟議の当事者が公正な結論を導く際の指針として採用し得る新たな〈法的思考〉を支える有望な候補になり得ることが示された。ウェーバーからヤスパースへ継承された思想の根底には、価値に関する討議やコミュニケーションを担う一定の規範的意味づけを与えられた「人格」が置かれているが、この「人格」こそ、熟議の当事者に求められる〈法的思考〉を有する主体のモデルになり得るとの知見を得た。 第三に、以上の研究から、公正な熟議に求められる〈法的思考〉とは、常に自己の見解や主張が参加者の批判にさらされ、相互チェックを経た反省的な志向を備えたものであるべきとの結論に達した。とりわけ、独断的絶対主義に通じる底無しの価値相対主義と対峙するなかで形成されたウェーバーやヤスパースのコミュニケーション理論には、公正な熟議を目指す参加者にとって参照可能なコンパスとしての可能性が見出された。 今後は、熟議を支えるコミュニケーション理論が考慮すべき道徳上の問題に対する分析と考察を行う研究へと発展させていきたい。
|
Research Products
(2 results)