2018 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Analysis of Class Actions in Latin America
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18K01224
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70388065)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民事法律扶助 / 法テラス / 司法アクセス / 経済的弱者 / 消費者法 / 集団的利益 / 消費者集団訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ブラジルを中心に、①困窮者の司法アクセスの問題、②消費者の集団的利益の保護と実現における公的機関の役割に焦点をあてて研究を行った。 ①について、わが国では、民訴法の訴訟救助と、総合法律支援法下の日本司法支援センター(法テラス)による法律扶助があり、前者では裁判所への予納がカバーされ最終的には国庫負担、後者では弁護士費用等がカバーされ、こちらは立替制を前提に扶助対象者が最終的な負担者となる。ブラジルでは、裁判所へ予納する費用も弁護士費用も訴訟費用として、民訴法典の「訴訟費用免除」の対象となる。また、法テラスの民事法律扶助の利用に際し、所得証明等を求めるわが国と異なり、ブラジルでは、自然人に限り困窮の推定規定があり、さらに、免除決定を受けた予納金は5年の除斥期間に服する。ブラジルの制度は非常に柔軟である反面、弁護士のイニシアティヴによる訴訟提起と訴訟費用免除の申立てが行われ濫用が問題となっている。 ②について、消費者の集団的利益を裁判において実現する機関のうち、公的機関である検察庁と公共弁護庁(わが国の法テラス)について、その活動における憲法的限界を中心に検討した。まず、検察庁については、判例上「社会的重要性」のある処分可能な集合的利益についてのみ集団訴訟の提訴権が認められているが、当該「社会的重要性」要件は、実質的に集団的利益の「同種性」要件としてオーバーラップする。次に、公共弁護庁については、わが国の法テラス同様、経済的弱者への対応を職務とするため、経済的弱者以外の者も含まれ得る集団的利益については理論的には集団訴訟の提訴権が認められないはずであるが、最高裁判例では、集団訴訟の一段階目にあたる概括給付判決については、集団構成員の属性を問わず、公共弁護庁の提訴権を認め、二段階目の判決清算手続については経済的困窮を証明する者のみ支援可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブラジルの検察庁及び公共弁護庁は、同国における集団的利益保護の重要なアクターとして位置付けられる二大公的機関である。本年度は、これらの二機関に焦点を当て、ブラジル連邦憲法下における両者の活動の理論的基礎を解明することができた。特に、わが国と異なりなぜ検察庁が民事訴訟である消費者の集団的利益保護に関わるのか、そして、本来は困窮者の司法アクセスをサポートする公共弁護庁がなぜ消費者の集団的保護に携わるのかを解明できたことをは大きな収穫である。 上記の検討とともに、公共弁護庁の本来の職務である経済的弱者の司法アクセスがブラジルではいかなる法律の下でどのように運用されているのかを解明できた。本研究が、消費者のみならず広く弱者の法的保護とその法的利益の実現方法を検討対象とするという道筋を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ブラジルの「行動調整」について検討する。行動調整とは、公的機関のみが締結可能な集団ADRであり、集団訴訟提起に先立ち試みられるもので、集団的利益保護の文脈において、集団訴訟以上に効果をあげている。わが国の消費者裁判手続特例法は未だ訴訟提起自体がなされていない状況にあるが、訴訟提起以前の取組みである「行動調整」の検討を通じて、国民生活センターのADR(国センADR)の効果的な運用について提言を行うことができると考える。 ブラジルの民間弁護士の「プロボノ」活動の位置づけについて検討する。ブラジルのみならずラテンアメリカでは「プロボノ」を通じた弱者保護活動が盛んである反面、プロボノに対する弁護士会の対応についてはブラジルの州によってその差がみられる。この検討を通じて、ブラジルにおける民間弁護士を含めた弱者保護・救済の全貌を明らかにできると考える。
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Causes of Carryover |
ブラジルへの渡航計画が大学業務のため実現できなくなったことで、その旅費予定部分が次年度使用額となった。渡航により実施が予定されていた研究については、物品費に含まれる図書を多数購入したこと、メールインタビューの手法による現地の実務家・研究者への聞取調査を行なったことで、当年度の研究遂行への支障はなかった。次年度使用額による増額分を含めた使用計画としては、PC購入による研究環境整備と旅費に充てる予定である。本年度の物品費は既述のとおり図書費として多く使用され、PC等の研究環境整備には使用されていないからである。
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