2020 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Analysis of Class Actions in Latin America
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18K01224
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70388065)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アルゼンチン民商法典 / パナマ国際私法典 / ブラジル民事訴訟法典 / モンテビデオ条約追加議定書 / ブスタマンテ法典 / 国際私法に関する米州間専門会議 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、2014年アルゼンチン新民商法典、2015年パナマ新国際私法典、2015年ブラジル民事訴訟法典から抽出した各種テーマにおける研究を行った。 アルゼンチン新民商法典からは、国際私法規定に関する研究および契約法・家族法の重要改正に関する研究がある。同法典では、これまで各種の法令に混在していた一連の国際私法規定を一括りにまとめて初めて明文化した。明文化されたルールの中では、人権に関する国際条約を憲法と同等の位置づけとすることや、法源対話論が目を引く。法源対話論とは、上位法優位の原則や、特別法優先の原則、後法上位の原則という伝統的方法によらずに、法令間の矛盾を克服するルールのことであり、ラテンアメリカでは広く普及している。契約法・家族法の重要改正に関しては、契約法(第三巻)における契約総則規定の充実化、ステップファミリーにおける隣接親権者概念の創設をその特色として挙げることができる。 パナマ新国際私法典からは、非対等当事者間の準拠法について、比較法的見地より、パナマ法、日本法といった国内法制比較のみならず、ヨーロッパ諸国、ラテンアメリカ諸国の条約法も含めて考察した。ラテンアメリカ諸国の国内法では、弱者当事者保護の見地から、当事者自治による自由な準拠法選択を制限する法制度を採用するケースや、パナマ法典のほうに、消費者利益優先原則の下、「消費者に最も有利な」法選択が行われて、消費者のフォーラム・ショッピングを許容するケースもある。ラテンアメリカ諸国の各種条約法では、消費者に最も有利な法が裁判官の職権により適用されることを認めている。 ブラジル民事訴訟法典からは、効率性原則、裁判官の事件管理、拘束性を有する先例、訴訟契約、反復事案のための訴訟手続、先決問題に関する既判力の拡張といったテーマを概観した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、過年度の研究であるブラジルの法制度を俯瞰的に見るべく、ラテンアメリカ諸国の中からアルゼンチンとパナマの法制度を検討した。また、ブラジルの法制度についても、民事訴訟法典の中の新規規定を各種検証することで、ブラジルの訴訟制度が向かおうとしている方向を見据えることができた。 パナマ新国際私法典における非対等当事者間の準拠法および当該問題に関するラテンアメリカ諸国の条約法の検討を通じて、ラテンアメリカ諸国の法制度が、かつては、歴史的支配国であったスペイン・ポルトガルの法制度を基軸とする法典編纂を経て相互に関連性を有し、ラテンアメリカ法文化圏を形成するに至っていたが、現在は、地域的国際関係の中で、特に弱者保護法制については、米州条約のルールを取り込んだ国内法規範が各国で立法されることで、結果的に、ラテンアメリカ諸国に共通する法制度が見られるようになっていることが分かった。 アルゼンチン民商法典に関する研究を通じて、ブラジル、アルゼンチン、パナマに共通する各種弱者保護制度の出所が、米州条約のルールであることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、ブラジル集団訴訟制度の提訴権者に着目して、弱者利益を代表する機関としての検察庁、公共弁護庁の訴訟活動を検証し、これに続いて民間団体の訴訟活動へと研究を進めてきた。 これに加えて、ブラジル以外のラテンアメリカ諸国へと研究対象を広げた結果、ラテンアメリカ諸国の各種弱者法制が、米州条約のルールを取り込んだ国内法規範となっていることが分かった。 今後の研究では、改めてブラジルの法制度に戻って研究を進めるが、地域的な国際規範である米州条約あるいはラテンアメリカ諸国間の国際的司法関係に注意を払って、研究を進めることとする。 個別的に取り組む必要のあるテーマの一つとして、ブラジルにおける集団訴訟の判決効がある。最近、ブラジル連邦最高裁は、これまで長らく問題となっていた集団訴訟の判決効の地域的制限を違憲とした。この問題については2018年度に行った研究について新たな最高裁判決が出たことになり、継続的研究を必要とすると考えている。
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Causes of Carryover |
もともと2020年3月に計画されていたブラジル及びアルゼンチンへの渡航が、新型コロナウィルスによる渡航自粛要請のため実現できなくなり、2020年度中、渡航を計画したものの、ブラジルおよびアルゼンチンの感染者急増により2020年度中の渡航を断念せざるを得なくなった。滞在期間として約1か月間が予定されており、複数国、複数都市への訪問を伴うものであったため、これらのキャンセルに伴い、次年度使用額が生じた。渡航により実施が予定されていた研究は、2019年度に続き2020年度も、現地の実務家・研究者へのzoomを用いたオンライン・インタビューにより一部実現できたため、当年度の研究遂行にあたり多大な支障とはならなかった。 次年度使用額による増額分を含めた使用計画としては、第一に、渡航が許容される状態となれば旅費に充てる予定である。第二に、PC等の購入による研究環境整備に充てる予定である。また、本年度は、zoomを用いたオンライン国際学会・国際シンポジウムの実施や参加を計画しており、動画編集等のオンライン資料作成ソフトの購入を含め、オンライン研究環境の整備に重点的に充てたいと考えている。
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