2022 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Analysis of Class Actions in Latin America
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18K01224
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70388065)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 消費者政策体制 / アルゼンチン / ブラジル / デジタルプラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究では、アルゼンチンおよびブラジルの消費者当局を中心とした消費者政策体制、ならびに、デジタルプラットフォームにおける消費者保護に関する研究を行なった。 前者の消費者政策体制については、まずアルゼンチンに関して、わが国の消費者庁にあたる政府機構内の消費者当局を特定した上で、当該消費者当局が全国レベルで展開する消費者保護プログラムの詳細を検討した。その際、これらの消費者保護プログラムの中で重点プログラムとされているものについて、それらがアルゼンチン社会において果たそうとする役割を、その理念や背景も踏まえて分析することで、消費者当局がどのような消費社会の実現を目指しているかを明らかにした。結論部分となる日本の消費者政策体制への提言では、わが国の現行体制と若干の突き合わせを行いつつ、参考にできると思われる点を提示した。次にブラジルに関して、同様にわが国の消費者庁にあたる政府機構内の消費者当局を特定した上で、当該消費者当局を中心として、全国レベルで展開される消費者保護政策がどのように動いているのか、また、他の消費者保護関係機関との役割分担はどのようになっているのかを考察した。 後者のデジタルプラットフォームにおける消費者保護については、わが国で2020年、2021年と相次いで制定されたデジタルプラットフォーム関連法である、デジタルプラットフォーム透明化法および取引デジタルプラットフォーム消費者保護法について、制定に至る背景、制定法の特徴と課題について考察し、結論について、両立法によりもたらされた行政規制から、今後の民事責任(デジタルプラットフォームの不法行為責任や契約責任)への展開について考察を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において、これまで中心に研究してきたブラジルと比較する意味で、新規にアルゼンチンの消費者政策体制に関する研究を行なった。そのためアルゼンチンの体制調査に多くの時間を要し、ブラジルの体制とのパラレルな比較が不十分となった。ただし、アルゼンチンの消費者当局とブラジルの消費者当局では、重点が置かれている役割が異なっていたため、完全にパラレルな対比は困難であった。また、アルゼンチンもブラジルも、国家当局の再編が行われており、特にアルゼンチンでは短期間のうちに国家当局の再編が繰り返されているため、担当機関の連続性を一つひとつ確認する必要があった。また、消費者相談ひとつとっても、これに関係する国家機関がわが国よりはるかに多く、また民間団体にも同様の機能が付与されている。これらを網羅的に把握した上で、それぞれの存在意義や管轄範囲を確認する必要があった。渡航ができれば効率良く調査できた可能性もあるが、コロナ禍の方針と現地の状況から渡航が難しい状態であった。その一方で、国家機関を中心にサービスのIT化が進んでいるため、調査資料の多くをリモートで入手でき、現地の研究者ともズームを通じて交流できたことで、研究の進捗はおおむね順調であった。
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Strategy for Future Research Activity |
ブラジルとアルゼンチンの消費者政策体制については、個別消費者への対応と集団レベルでの消費者対応を対比して分析を進め、両者の相互関係について検討を進める。具体的には、わが国の消費者裁判手続特例法改正により導入された諸点についてブラジルの集団訴訟制度からの検討を行い、残されている課題を明らかにする。また、個別消費者へのあっせんを通じた解決と、同一問題の和解を含む集団的解決の効果面での相互関係をブラジル法と比較検討する。 また、こうした個別消費者への対応と集団レベルでの消費者対応に関する点を含め、消費者政策の決定についてリーダーシップをとる機関として、ブラジル・アルゼンチンの消費者当局が存在している。わが国では、消費者庁が2009年に発足して2024年で15年となる。当初の発足目的と照らして達成度を確認しつつ、消費者庁が今後行っていくべき取組みや果たすべき役割について、諸外国の消費者当局の取組みや役割を参考に提言できると考える。このように、集団的利益の保護と実現に関して、法制度それ自体の改良のみならず、法制度と法政策を両輪と捉え、政策の実現主体としての(消費者)当局の役割も視野に入れたより高域の比較法的分析を推進する。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスによる渡航自粛要請を主因として、ブラジルやアルゼンチン等への海外渡航が実現できずに複数年が経過し、これに充てるべき金額が累積的に次年度使用額となっていた。渡航により実施が予定されていた研究は、現地の実務家・研究者へのズームによるインタビューにより一部実現できた。ズーム・インタビューを実施するための研究環境整備としてPC等の電子機器購入に使用額を充ててきたが、それでも旅費として計上されていた使用額を全て使い切るには至らなかった。ただし、円安の進行により、今年度の海外渡航を計画するにあたり、旅費の見積もりを当初よりも相当多く考えておかなければならなくなったため、結果的には今年度の渡航費として十分な額を確保できることになる。
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Research Products
(8 results)