2018 Fiscal Year Research-status Report
Rape suits disguised - what were the husbands' true wish ?
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18K01225
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
北野 かほる 駒澤大学, 法学部, 教授 (90153105)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 婚姻 / 離別 / 教会法 / 世俗法 / レイプ / 家族継承財産 |
Outline of Annual Research Achievements |
すでに進行中の、民事不法侵害訴訟としての夫による妻"rape"の申立事例の収集を継続した(国王裁判所とりわけ王座裁判所裁判記録集)。 ロンドン市のHasting裁判所裁判記録集の民事雑編(不動産移転関係を除く民事全般)につき、ヘンリー4,5世期の記事を閲覧して、そこに、国王裁判所裁判記録集収録事例に類似した上記のような"rape"の訴えがあるかどうかを調査した。その結果、すくなくとも残存する記録集にはこれに類する訴え事案がほぼ見当たらないことが判明した(ただし、国王裁判所記録集と異なり、Hasting裁判所記録集は提起さらに裁判された事案のすべてを記事化して収録しているわけではないから、そもそもこの種の訴えは国王裁判所しか受け付けていなかったとまで推測を推し進めることはできないと考えている)。 研究者の仮説「"rape"の訴えは実質上夫婦の合意による夫婦関係解消の効果を隠喩的に確保することが目的である」を論証するためにクリアすべき視点のひとつである「そうした方策を”とりやすい”社会層と”とりにくい”社会層があったのではないか」を検討するために、社会の中層部より上の階層で頻繁に行われていたと考えられている「(子女の婚姻あるいは被相続人の死期の切迫に際しての子女あるいは係累への)家族継承財産設定行為」の事例を探すため、国王裁判所裁判記録集に同綴されている私文書搭載・効力確認記録集(=非訟事件記録)および和解譲渡証書を調査し、家族継承財産についての緻密な条件設定の例を収集した。そこでは婚姻当事者の「生離別」のみならず「死別~再婚」の事態も明確に想定されてはいないものの、継承権を持つのはある者の嫡出子であることが明記されており、特定配偶者との子であることが要件となっていない例もあることを確認した。相当の財産がある社会層でも「合意による離別」は可能だったか。多角的に調査を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記実績で説明したとおり、申請時には必ずしも視野に入っていなかった新たな分析視覚からの調査を、いわば「割り込ませた」ため、単純な事例件数蓄積作業はやや遅れ気味である。しかし、新たな視点を加味した調査を実施したことで、仮説に「厚み」を加える可能性が浮上してきた。その視点を整理すると、ほぼつぎの二点となる。 1.研究者が問題としたような現象は、王の裁判所でだけおきていたものだったか。 2.そうした現象あるいは方策を「活用しやすい」社会層と、そうでない社会層があったと考えて良いか。 これらについてはそれぞれ一定の時間を割いて調査した。とりわけ2.は、つぎのような考察に基づいている。すなわち、単なる不法侵害訴訟提起例の数量的蓄積だけでは、カトリック時代の中世イングランドに事実上の合意による離別、それも、別居にとどまるのでなく、新たな婚姻をも許容するような離別がありえたとする仮説を、理論的に補強することは困難である。正面からは離別を論じないにもせよ、これを「ありうること」として想定していると推認できる事例はないだろうか。これを暗示する傍証がみつかれば、そこから、たとえば「アーンバラー家文書」にみられるように、ジェントリ家門での遠縁の者たちの相続権主張争いで最有力候補者姉妹を別の縁者が「私生児」だと主張していることの意味を、従来の研究分析とは頃なる視覚から眺めることも可能になるだろう。 従来析出してきたのと同じパターンの事例を、同系列の史料のみから抽出・蓄積する収集作業は当初の予想よりも遅れ気味だが、こうした新たな観点からの傍を探索する作業の進展を考えれば、本年度の研究作業は、本課題が目的としている最終的な成果にとってはむしろ有益な情報を付加したことになると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.調査する期間(=時期)をどこまでで区切るかの検討。ヘンリー6世期(15世紀)は、影響の発現は事柄により時期が異なるとはいえ、イングランドの社会が、政治的にのみならずおそらく社会の中下層部の「国の司法行政」に対する法的期待さらには信頼の程度が変化した時期でもあると考えられる「バラ戦争期」で終わりを迎える。この時期を越えて、結局は近世初期のテューダー朝による「行政改革」につながるような、国王の政府諸期間への姿勢の違いが見え始めるヨーク朝のエドワード4世期まで調査を進めるべきかどうか、2019年度上半期中に結論を出す。 2.調査する期間(時期)をどこまで遡るかの検討。1とは反対に、現在までに調査がかなりの程度まで終わっているヘンリー4,5世期の"rape"訴訟の隆盛が、いつ頃から見られた現象であるかにつき、直前のリチャード2世期を全面的に調査するか、あるいは、リチャード2世。エドワード3世後期・中期・初期について、ピックアップ的に調査をかけて趨勢についての感触をえることを優先するか、これも、上半期中に見通しをつける。 3.そのうえで、この種の訴えが最も隆盛であったと認定できる時期を中心に、カトリック時代の中世イングランドで、実質的な「生離別」がどのようになされ、どのように受け入れられていたかを確認する目的に資する他の史料群とのクロス検索の可能性について、より具体的に検討する。候補としては、教会裁判所が夫婦関係全般についてどのようなスタンスを取っていたと推定できるかの調査のための二大大司教区管区裁判記録集(カンタベリー管区およびヨーク管区)が筆頭となる(2019年度後期~2020年度)。
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Causes of Carryover |
海外調査費用充当研究費として、所属研究機関からの支出可能分を優先したことにより残額が生じた。次年度には、海外調査旅費のほか、海外研究機関、とりわけロンドン市史料館所蔵資料のマイクロフィルムの複製の作成依頼等の関連史料入手費用に充当したい。* さらに、新たに教会裁判所関連の史料の入手に取り組みたいが、これも所蔵館が別であるため、どのような手続でどのような史料をどこまで入手できるか、それにどの程度費用がかかるかは現時点で不明である。史料館使用許可の手続および経費についても必ずしも十分明確な情報が得られていない(イギリスの中小史料館には、ウェブサイトに、詳細は現地で問い合わせろという指示があるにとどまるものも少なくない)。次年度使用額は、海外調査費用、とりわけ海外(イギリス)の関連史料の複写物あるいはマイクロフィルムの入手に充当する予定である。 * すでにわかっている当該史料所蔵館の手続・支払方法が所属研究機関の標準方式と合致しないため、以前の発注分は私費支払で処理したが、所属研究機関への確認により、そうした場合は立替払扱いでの処理が可能ということであった。まだ手続等が不明な所蔵館の所蔵物を含めて、今年度は史料の確保に一定の財源を充てたい。
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Research Products
(2 results)