2019 Fiscal Year Research-status Report
Rape suits disguised - what were the husbands' true wish ?
Project/Area Number |
18K01225
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
北野 かほる 駒澤大学, 法学部, 教授 (90153105)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | レイプ / 世俗法上の「離婚」 / 婚姻継続不能条件 / 女性を被害者とする暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
王座裁判所裁判記録集民事編の事例収録調査範囲を、①a夫が妻のレイプを訴える民事侵害訴訟から、さらに②女性が自分へのレイプを重罪私訴として訴えるケース③夫婦協働原告で妻の暴行訴える民事侵害訴訟④女性が自分への暴行を訴える民事侵害訴訟へと拡大し、さらに同記録集刑事編の⑤地元住民の起訴陪審が女性のレイプを重罪として正式起訴するケースへと拡大し、平行して民事編の⑥主人が女性のservant*の誘拐を訴える民事侵害訴訟も収録した。 * serviens (Lat.)に対応する社会的状態は多岐にわたるが、女性の場合は家内で働く者と推認できる。ただしこれがいわゆる「女中」であるか「内縁状態の女性」であるかの判定は極めて難しい。 当面得られている観察結果は以下のとおりである。 [A] ①aの数が圧倒的に多い(比較的多い③と比べても数十倍ある)。②は手続上⑤に準じるかたちに以降する(私訴人である女性が訴訟遂行を放棄する)ことも可能だが、いずれにせよ事例数そのものが少ない。①aと⑤が重なっている(同一事案について刑事的非難と民事的損害賠償請求が起きている)ケースは、他の類型の侵害と比較すると圧倒的に少ない(そもそも両方生じている例が1件しか見つかっていない)。③④は明らかにレイプでない暴力行為であって、審理過程の記録から、被害者が女性であることに格別の意味はないことが明らかである。⑥については男性servantの誘拐(実質は労働者不足に伴う労働者の引き抜き)とどう違うか、慎重な検討を要する。以上から①aは特異な社会的状態という当初の見通しがほぼ裏付けられたと考えている。 [B] レイプの民事侵害訴訟には①aのほかに①b後見人が未成年の被後見人のレイプを訴えるケースがある。「レイプ」の意味を推測する素材として重要だが、この考察は統計的観察を超える「婚姻を巡る価値観」の問題であるため、最終段階に回したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
[A] 実績概要のとおり、世俗法上の「レイプ」の扱いを理解するための、「女性を被害者とする暴力事件」全般との比較については相当程度作業が進んだ。 [B] しかし、世俗法上の「レイプ」を、実際の女性への暴力ではなく婚姻継続不能=婚姻状態解消事由として位置づけるという当初の仮説を裏付けるための方法として措定していた、教会法における「婚姻関係解消類型」事案との比較のための調査が順調にいっていない。 その理由の大半は、理論上包摂される教会の信者数が圧倒的に多かったはずの、イングランド中部以南を管轄する「カンタベリー大司教管区」の大司教裁判権行使の教会裁判所があった「ロンドン司教区」について、当該裁判所記録(いわゆる「アーチ裁判所裁判記録」)がまとまった形では残存していないことにある。2019年度の調査では、カンタベリー大司教/大主教管区*の記録を保管している「ランベス宮殿図書館」の目録等の調査検討から、この「不存在」=調査の極度の困難を確証することはできた。 * そもそもランベス宮殿図書館所蔵史料は、大半が宗教改革後の「大主教管区」時代のもので、カトリック時代の「大司教管区」関連の資料は、散発的例外的に残存しているロンドン周辺の各種民事訴訟(必ずしも教会裁判所専属事案に限らない)ものがほとんどである。2019年度にこれを確認できたことは、同管区教会裁判所の理解にとっては有益だが、この課題の調査のためには、悲観的な状態の確認につながった。 [C] 2020年度に、教会裁判所における「婚姻関係解消類型」事案については「ヨーク大司教管区裁判所記録」の調査に進む予定だが、これまでの調査で同管区に属する北部地域についての世俗裁判所の「レイプ民事侵害訴訟事案」の数が、南部地域に比べてかなり少ないことが、最終的な結論の統計的裏付けにとってにネックになる危険性があるという、やや悲観的な予測を立てている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記進捗状況に鑑み、教会裁判所の「婚姻関係解消類型」についての調査にはあまり力点を置かず、むしろ世俗裁判権における「レイプ事案」およびこれ以外の「女性を被害者とする暴力事案」の調査を、人民訴訟裁判所記録集へと拡大する方針に転換する。 理由としては、もともと当初の見通しとして、『世俗裁判所における「レイプ」事案と教会裁判所における「婚姻関係解消許可」事案とはおそらく全く重ならない=対応する社会的状況が異なる』という仮説があったことによる。すなわち、2019年度の調査は、そもそも、史料から、消極的状況の証左を得る目的で試みたのだが、これが結局「調査すべき史料がない」という完全に消極的な史料残存状況の確認に終わったことが挙げられる。 このため、方針をやや転換して、王座裁判所と並ぶ中世イギリスの王の裁判所であった「人民館訴訟裁判所」が「レイプ侵害訴訟」提起のための場としてどの程度活用されていたかという統計的情報の可能な限りの収集・事例集積に集中して、主に統計的角度から、当初の仮説を裏付ける方向で作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
① 主に教会裁判所裁判記録の現地調査結果収拾のために予定していた史料複写費/マイクロフィルムからの印刷費・フィルム複製作成費等が、そもそも該当する史料が残存していないことが確認されたことによって不要となった。 ② 研究課題関連の専門書の出版がなく、文献収拾費が予定ほど必要でなかった。
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