2019 Fiscal Year Research-status Report
刑の一部執行猶予を含む刑罰の重さの認知要因の解明と刑事司法運用への応用研究
Project/Area Number |
18K01230
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
藤田 政博 関西大学, 社会学部, 教授 (60377140)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 刑の一部執行猶予制度 / 量刑 / 一対比較法 |
Outline of Annual Research Achievements |
第2年度に当たる2019年度は、第1年度の先行研究調査を基盤として、データ収集を行った。具体的には、オンラインで仕事として質問紙に対して回答する回答者を募ることができるインターネット上のサービスである「クラウドワークス」社に依頼し、一般社会人でオンライン調査に協力しても良いという回答者を多数募った。アンケートに回答することで謝金がもらえる仕事としてオンライン調査にワーカーを募集し、回答者には謝金を支払った。回答者に尋ねた内容は、刑の一部執行猶予を含む刑罰に関して、2つの刑罰を見てどちらが重いかについてたずねるものであった。ありうる組み合わせを総当り戦で一対比較法であった。また、最低限の人口統計学特性として、回答者の年齢と性別も尋ねた。 収集したデータは一対比較法の分析法を用い、各刑罰を1次元上の尺度上に表現するとどのように配置されるかを計算した。結果が予想に合致した点は、実刑の年数が大きな重みを持っていたこと、懲役刑が執行猶予される場合で執行猶予対象の懲役年数が同じ場合、執行猶予の年数が長いほど重く評価された点であった。執行猶予対象の懲役刑の年数と執行猶予の年数の組み合わせが異なる場合、必ずしも予想が容易でなく、それが故に本研究の前に行われた主として刑事司法的な研究ではどのように刑罰の重さを評価してよいか定説がなかったが、今回の調査結果によってきれいに一次元上に表現できることがわかった。なお、1箇所だけ予想に反して量刑上の数字上の大小と、今回得られた刑罰の重さの大小評価が矛盾するところがあった。これについては、測定が不十分なのか、回答者が勘違いしていたのか、あるいは人間の刑罰に対する主観的評価として系統的に意味のある判断の歪みを示しているのか、いずれか不明である。十分な回答数があったことからすると、勘違いの可能性は低いので、さらなる検討が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年度はデータ収集を行うことが目標であった。基金の補助を受けることで、外部のクラウドワーカーに対して当初予想以上の数のデータを収集することができた。さらにその結果を見ると、一対比較法を用いた後の分析で非常にきれいな形で刑の重さを一次元上に表現できた。第2年度で質問紙の完成・実行を行い、さらにきれいに一次元上に刑罰の重さを表現できることを明確にしたことは十分な成果であると考えられる。 また、年度前半で得た以上の成果を、国際学会で2年度目中に報告することもできた。学会発表は3年度目以降を予定していたので、国際学会で発表できたことは半年以上早く達成できたといえる。 また、今回のデータ収集で外部のクラウドワーカーに依頼してデータを収集する際のデータ収集のノウハウがわかった。 しかし、その一方で、第1年度に収集を行った文献をレビュー論文とすることについては、今年度中には完成しなかった。論文の執筆完了から刊行までは通常数年要することからすると、これは必ずしも遅いとは言えずおおむね予想された範囲内の進捗であるが、上記のf¥進展に比べると進展の程度はほどほどである。第1年度の文献調査完了から現在に至るまでに発行された文献に関する追加調査が必要になることを考えると、論文刊行までに追加の調査のための時間も必要になる。以上を考慮した結果、本研究で最も肝要となるデータ収集と発表については当初の予想よりも順調に進展したものの、文献調査とそのまとめとしてのレビュー論文の刊行の進展はほどほどであり、「当初の計画以上に進展している」とまでは言えないと判断した。 以上のような理由で、「概ね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の方針として、まず第2年度目の調査結果に関して、引き続き回答者に法律に関係する人を加えて実施することを目標とする。当初計画では第2年度目の調査で十分な回答数および十分な質問数が聞けなかった場合の追加調査を第3年度で行うことを考えていたが、幸いにして質問数と回答数は一つの調査としては満足できる数が集まった。しかし、学会発表等を通じて議論した際に、一般市民ではなく法律関係の回答者が刑の一部執行猶予制度にかかる刑の重さを評価した場合には、刑の重さの評価が変わってくることがあるのではないか、という指摘を受けた。研究の外的妥当性にかかる指摘である。一般市民の回答と法律関係者の回答が、刑の重さの大小関係に関して大きなものになると現時点では予想していないが、刑の一部執行猶予制度にかかる裁判が、裁判員制度にかかる裁判ではなく裁判官裁判で殆ど使われることを考えると、上記の指摘は無視できるものではない。幸いにして第3年度は追加で調査を行うだけの予算があるため、可能な回答数を集める範囲で法律関係者に対してインターネット調査を実施する方針としたい。 また、当初計画では国際学会や国内学会で第2年度の研究結果を発表してフィードバックを受け、今後の研究報告論文の執筆にむけた議論を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年にはいってからの国際学会の開催が軒並み中止や2021年以降に延期となっている。また、厳しい外出自粛で他の研究者との議論の機会を確保することもままならない。このため、今年度中の研究発表と議論を行うという点に関する進捗については、悲観的にならざるを得ない。したがって、今年度は研究計画最終年度ではあるが、もう1年の延長を申請し、4年度目となった年に行うことも検討している。
|