2018 Fiscal Year Research-status Report
勧告的意見(照会制度)の日本への導入可能性と具体的制度設計に関する研究
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18K01233
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々木 雅寿 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (90215731)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 勧告的意見 / 照会制度 / カナダ憲法 / 違憲審査制度 / 対話理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 カナダの照会制度 2018年度には、照会制度に関係する法規定(カナダ最高裁判所法、規則等)とその運用実態の検討を行った。特に、利害関係のある連邦や州の法務総裁や私人の照会手続への参加の根拠、実態と評価(裁判所が参加を認める基準、参加者の特徴や役割等)、多数の利害関係者の参加と司法権の役割との関係(多中心的課題の解決と司法権の役割との関係)等の分析を重点的に行った。その結果、以下の点が明らかとなった。カナダ最高裁判所法53条5、6、7項により、利害・関心のある政府や私人が裁判所での審理に参加することができる。同条5項は、利害・関心をもつ州の法務総裁に照会に関する口頭弁論の通知を行い、その主張を行うことを認め、同条6項は、利害・関心のある者や団体に対し、口頭弁論の通知を行い、意見陳述を認めるカナダ最高裁の権限を規定する。また、同条7項は、カナダ最高裁が、裁量に基づき、利害・関心をもちかつ弁護士により代表されていない者の立場を主張することを弁護士に要請し、その合理的費用を連邦政府が負担することを認める。そして、憲法問題に関する照会事件において参加を認められる者は、通常多くの異なる立場を代表している点、利害・関心をもつ政府や私人の参加を認めることにより、照会された争点が十分に展開される可能性が増し、それによって、裁判所の判断が社会に受け入れられやすくなる傾向も生じる点、しかし、様々な立場の代表が参加を認められるため、照会における審理手続がある意味で収拾のつかないものとなりつつある点等を指摘できる。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2018年度には、勧告的意見の導入可能性を主に憲法理論の観点から検討した。具体的には、最高裁判例、違憲審査の実態、学説等をふまえて、勧告的意見はいかなる条件の下で憲法上許容されうるのかを解明する作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 カナダの照会制度 2018年8月29日(水)に北海道大学で開催された「司法のファンダメンタルズの改革」研究会(基盤研究(B)「公開と参加を通じた司法のファンダメンタルズの改革」研究代表者=笹田栄司)において、研究代表者は、「カナダにおける違憲審査の参加手続」と題する報告を行い、カナダにおける通常の違憲審査手続における利害関係のある法務総裁や私人の参加手続と照会制度における同様の参加手続について検討を加えた。これにより、照会制度における利害関係者等の参加手続の特徴を比較的詳細に明らかにすることができた。この報告内容は、2019年度中に公表する予定である。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2018年度には、主に、衆議院の議員定数不均衡訴訟に関する一連の最高裁判決と関連する学説とを詳細に分析する作業を通して、最高裁の多数意見や個別意見が示した、事情判決、違憲確認判決、違憲状態判決等の判決手法と勧告的意見の機能との類似性等を検討した。この分析結果は、2019年度中に公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1 カナダの照会制度 2019年度は、当初の研究計画に沿って、カナダ最高裁と政治部門との対話(相互作用)の有無等を明らかにし、照会制度の強い型・弱い型等の違憲審査の諸類型における位置づけと、照会制度と対話的違憲審査との関係を検討する予定である。また、2020年度は、当初の研究計画に沿って、カナダで照会制度が成功している要因、改善すべき点等を解明する予定である。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2019年度は、当初の研究計画に沿って、日本における勧告的意見の導入可能性を、当該制度の民主的正当性の問題と関連する最高裁と政治部門との対話(相互作用)の観点から検討する予定である。また、2020年度は、当初の研究計画に沿って、憲法上許容され、日本の違憲審査の実態に適合的で、かつ、違憲審査の活性化に役立ち、憲法秩序を実効的に保障しうる勧告的意見の具体的内容を憲法政策の観点から提言する予定である。このために、カナダの照会制度の分析で得られた知見を、カナダ憲法に特有のものと、より普遍的な原理に基づいたものとを区別し、後者に関して日本への導入可能性を検討する予定である。特に、利害関係を持つ政府や地方公共団体、私人の参加手続を認める根拠と範囲に関しては、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」4条等の既存の法規とその柔軟な運用可能性や、カナダでも用いられている訴訟参加手続や裁判所の友の活用等の可能性を探る予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度の研究費に関しては、4,992円の残額が生じた。これは、経費の節減・効率的使用によって発生したものである。この残額は、2019年度はじめに、日本国憲法81条の解釈論に関連する最新の図書等を購入するために使用する。
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