2018 Fiscal Year Research-status Report
実効的な行政調査制度の構築――調査協力・証明責任・刑事法との連携
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18K01236
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中原 茂樹 東北大学, 法学研究科, 教授 (60292819)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 行政調査 / 調査義務 / 調査協力インセンティブ / 職務行為基準説 / 証明責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、行政処分の要件認定のための行政調査の仕組み及びそれを前提とする行政機関の調査義務のあり方が、特に国家賠償制度に対してどのような影響を与えるかを検討した。すなわち、最高裁判所平成5年3月11日判決・民集47巻4号2863頁は、納税義務者が税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしなかったため、税務署長が申告書記載の金額を採用して必要経費を認定し、更正をした事案で、「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受ける」としている。この判決について、課税に関する決定過程を分節化し、それぞれの局面で税務署長や国税審判官や裁判官等々にそれぞれ違った役割を割り当て、全体として不適正な課税を抑止しつつ適正な課税を確保するという観点から理解する「重層的職務行為規範論」(小早川光郎教授)や、「国賠法1条の違法は、原則として、行政機関の公務員が法適用に当たり十分な調査・検討義務を尽くすことなく実体的真実に反する行政決定を行ったこと……を意味するが、実際にこれに該当するか否かは、調査・検討義務の完全な履行を公務員に課すことに困難な事情が存在していたか否かという観点から、判断される」とする見解(米田雅宏教授)等を分析し、行政機関の調査義務のあり方が国家賠償制度に与える影響について考察した。さらに、上記判決の射程や他の判例との整合性等を分析し、国家賠償法のコンメンタール(宇賀克也=小幡純子編著『条解国家賠償法』)において公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
行政処分の要件認定のための行政調査の仕組み及びそれを前提とする行政機関の調査義務のあり方を検討する上で、重要なテーマである国家賠償制度との関係について考察し、その成果を公表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の検討結果を踏まえ、平成31年3月12日に閣議決定された独占禁止法改正案における調査協力インセンティブを高めるための課徴金減免制度の見直し(協議制度等)についても、行政法的観点から検討を加え、本研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
研究課題に係る資料収集のために使用した旅費が、計画よりも若干少なかったために次年度使用額が生じた。これについては、次年度に資料収集のための旅費として使用することを計画している。
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[Book] 条解国家賠償法2019
Author(s)
宇賀克也・小幡純子編著
Total Pages
737(102-120を分担執筆)
Publisher
弘文堂
ISBN
978-4-335-35773-2