2020 Fiscal Year Research-status Report
資源の有限性をめぐる法学的考察――「事業としての行政」法理論の可能性
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18K01237
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飯島 淳子 東北大学, 法学研究科, 教授 (00372285)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 行政法理論 / 資源 / 事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
行政改革や人口減少社会の名の下で、資源の有限性が明確に自覚されるようになった今日、物的資源や金銭的資源とは異なる対応を要する人的資源の限界という社会事象に対して、行政がどのように働きかけ、行政法がこれをどのように規律しているか、そして行政法理論は、いかなる枠組みを設定し、いかに課題を捉えるべきか。かかる「問い」に対し、本研究は、資源の有限性を法学的に考察すること、とりわけ行政法理論・地方自治法理論の見地から「事業としての行政」という考え方の可能性を追求することを目的とするものである。 今年度は、資源の有限性にまさに現実に直面している地方自治の観点から、基礎理論を模索するとともに現下の危機的状況における多面的な問題を論じたのに加え、国(中央防災会議)の研究会への参加を通じて実務的観点からの考察をも行った。 とりわけ、近時の立法のなかに、私人(個人および集団・団体)による自らの「自由と財産」および地域の「自由と財産」の行使を公共的活動に組み入れようとする傾向がみられることを指摘した上で、「自由と財産」を行使する責務の規範的基礎付け、そしてヒトの活動を公共的活動に媒介する規範について検討し、私人が自分でまたは自分たちでやる・やらせるための“四段階構造モデル”として、PDCAの法理論を提示した。 PDCAサイクルを組み込んだ管理は、現下のパンデミック対応においても観察される。すべての人が、社会的危機に直面しながらも自らの営みを継続していくために否応なく、目の前の状況に応じた制度設計を新たに行い、限られた資源で実施できるよう効率化を図り、ようやく実施に移し、失敗しては修正するという営みは、社会自身が(制度設計を含む)管理の能力を高めることにつながりうることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、実証研究と制度分析を行うと同時に、比較法研究にも示唆を得ながら、研究目的の達成を目指すものであるが、今年度は、基礎理論研究と実証研究を一定程度行うことができたものの、比較法研究を遂行することができなかった。 比較法研究は、初年度に文献調査とそれを基にした研究業績を公表することができたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外現地調査を行うことができない状況が続いているほか、本務校の学内行政業務に忙殺され、外国法文献の収集・講読も十分に行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
資源の有限性が、どのように法的言語に翻訳されてきたかという課題設定の下、国や地方公共団体の審議会等への参加を通して経験した具体的事例をも取り上げ、現実の立法過程と行政過程から、実証研究と実定法制度の整理・分析を行う。 まず、国(中央防災会議)の研究会への参加を通じて得られた知見をもとに、防災分野における理論的研究を遂行する。避難行動要支援者への支援について、まさしく生命が危機にさらされるなかで、公助のみならず共助の実効性をいかに確保しうるかという点をはじめ、資源の有限性を踏まえつつ体系的な検討を行いたい。 また、人口減少社会などの日常的な危機のみならず、新型コロナウイルス感染症によって急激に顕在化した危機において、多様化・複雑化している資源の有限性の問題を、行政法理論の見地から考察したい。刻一刻と変わる社会事象・行政事象の観察に追われるのみでなく、中長期的に、いかにして持続可能なサービス提供を制度設計するかという関心を失わずに、国レベルと地方レベルのそれぞれにつき、この危機のありさまを実定法制度にてらして内在的・体系的に分析することを試みる。 なお、研究の遂行に当たっては、医学・疫学・公衆衛生学の専門知識が必要となることから、専門家に対し、研究補助として専門知識の教示を依頼することにしている。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外現地調査や国内出張が叶わなかったことに加え、本務校の学内行政等の事情により時間的制約が大きく、外国法文献を含む文献収集も十分に行うことができなかったため、予定以上の大幅な次年度使用額が生じた。 来年度以降、海外・国内出張の機会を設けることを引き続き検討しつつ、まずは、本研究に必要となる専門知識を教授いただくために研究補助を依頼し、現在の状況において可能な限りの研究を遂行していくことを予定している。
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Research Products
(4 results)