2023 Fiscal Year Research-status Report
資源の有限性をめぐる法学的考察――「事業としての行政」法理論の可能性
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18K01237
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飯島 淳子 東北大学, 法学研究科, 教授 (00372285)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 行政法理論 / 資源 / 事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、資源の有限性を法学的に考察すること、とりわけ行政法理論・地方自治法理論の見地から「事業としての行政」という考え方の可能性を追求することを目的とするものである。 今年度は、新型コロナウイルス感染症対応を対象として基礎理論的観点からの分析を深めるのに加え、人的資源たる地方公務員の人材育成・確保のあり方について検討を行い、さらにフランスの地方制度改革の現状について法制度的観点から整理を行った。 新型コロナウイルス感染症対応に関しては、統治と行政、および、社会と自治を議論の枠組みとして設定し、入口と出口という局面の区別を意識しつつ、コロナ対応において地方自治はどのような課題を生じさせたのか、そこで認識された事象を整理し、これに対して講じられた対応について分析した上で、地方自治法理論がいかなる役割を果たしたのか、その意義を提示した。 地方公務員の人材育成・確保に関しては、「人材育成・確保基本方針策定指針」の改訂が、現状認識の変化とそれに基づく対応策の変化を示すなかで、職員個人を重視するという考え方を明らかにしたことの意味を探った。職員の「エンゲージメント」等の主観的側面への着目が、職員個人の内面・内心への介入とならないよう、法的な歯止めについて工夫する必要があることを指摘した。 フランスの地方制度改革に関しては、「差異化、分権化、分散化および地方行政の簡素化の諸措置に関する2022年2月21日法律第2022-217号」について、この法律が、40年におよぶ地方分権改革の流れのなかで、差異化、分権化、分散化および簡素化という4つの柱を掲げ、黄色いベスト運動とコロナ禍という2つの危機の只中で改革を進めようとしたものであり、とりわけ、フランス特有の強固な平等原則および共和国の単一性の原則のなかで、差異化の必要性が強調されたこと自体、一定の意味があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、実証研究と制度分析を行うと同時に、比較法研究にも示唆を得ながら、研究目的の達成を目指すものである。今年度は、比較法研究についても、フランスの地方制度改革の最新の状況を検討するなど一定程度行うことができたものの、文献調査にとどまり、海外現地調査には至らず、必ずしも十分に遂行することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
比較法研究に関し、フランスの地方分権・地方自治に関する近時の動向を把握するために、「差異化、分権化、分散化および地方行政の簡素化の諸措置に関する2022年2月21日法律」に関する分析を踏まえて、海外現地調査を行い、日本法とフランス法の比較を通して、本研究課題に新たな角度からアプローチし、研究全体を総括する視点を得る。 また、日本における地方分権改革の成果について検証し、深化させるべき時期に至っていることから、地方分権改革の総括と関連付けながら、「人的資源の限界」という社会事象について法制度的・理論的な分析を加える。多様化・複雑化している資源の有限性の問題に関し、中長期的に、いかにして持続可能なサービス提供を制度設計するかという関心を失わずに、本研究を相対化し、一定の答えを得ることを試みる。
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Causes of Carryover |
公私にわたる諸事情もあって海外現地調査が叶わなかったことに加え、国内出張も十分には行うことができなかったことから、予定以上の大幅な次年度使用額が生じた。 次年度は、海外・国内出張の機会を設けることを引き続き検討しつつ、今年度の研究成果を活かし、現在の状況において可能な限りの研究を遂行し、本研究を総括することを予定している。
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