2019 Fiscal Year Research-status Report
税務行政における多様化・柔軟化に対する法的統制に関する研究
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18K01242
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
吉村 政穂 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (70313054)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 租税法 / 租税手続法 / 情報交換 / データ保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
税制の複雑化・国際的調和が進む中で、行政手法の多様化・柔軟化が喫緊の課題となっている。本研究は、他の先進国における先行事例を日本が受容するにあたって検討すべき法的視座を確立し、導入の可否を含めて、新たな行政手法を日本の法体系に適切に位置付けるための基盤を構築することを目的としている。 2019年度は、新たな租税行政の手法として、リアルタイムで行政が情報を取得し、それを税務行政に生かすケースが世界で増えている現象に着目することとした。近年注目されるケースでは、 いわゆる付加価値税(日本でいう消費税)において、小売業者の売上把握を目的としたリアルタイムの情報共有制度を導入する国・地域が登場してきている。2019年度の進捗としては、そのような制度が導入された背景として、付加価値税の自己執行機能が機能する制度的基盤として課税当局による情報把握が重要であること、そして下流における執行強化が上流のコンプライアンス強化にも正の影響を与えることへの期待を指摘した(吉村(ジュリスト2019))。また、こうした取組が効果を持つ前提として、その小売業者の属する業種がどういった経済環境にあることが条件になるかについて整理をした。 納税者の取引時点と申告時点とのギャップを技術的に埋めることは、新しい税制の発展を可能とする。例えば、取引の都度に付加価値税の納付・還付が実施されるリアルタイム付加価値税への移行なども選択肢となる。この場合に、日本として何が法的課題として浮き上がってくるのかは明らかではない。この点は2020年度における課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、他国における個別的な先行事例・研究を踏まえて日本への示唆を導くことを目的としているため、2019年度はイギリス、ドイツといったヨーロッパにおける取組を中心的に検討する予定であった。しかしながら、研究代表者の担当する学内業務が想定以上に多忙で、かつ突発的な対応もしばしば必要であったために、公刊物としてまとめるだけの十分な研究時間を確保することができなかった。 また、年度末までに海外出張による資料収集・意見交換も予定していたが、COVID-19感染拡大の中で断念した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度までの研究成果を踏まえ、それらの取組をベストプラクティスとして整理し、個別の研究内容を一層深めつつ、税務行政の柔軟化を「受容」する上で有益な観点から、さらなる議論の一般化を図ることに努める。2019年度において扱えなかったヨーロッパの取組については、2020年度の研究として実施する予定である。2020年度後半は、当初計画において研究のとりまとめ期間として想定していたところであり、この期間も充てることとする。 最終年度の取りまとめとして、上記取組の成果を日本に受け入れるにあたって基軸となる視座・枠組を示し、近い将来に予想される政策論議に貢献する議論を提示することを目指している。特に、租税法律主義の有する機能(民主的統制)との関係について検討を深める。 なお、海外出張が依然として困難な状況にあることから、海外調査に限界があることが予想される。メールやインターネットを通じたインタビューなど代替的な手法によって課題を克服し、調査する方策を検討していきたい。
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Causes of Carryover |
海外出張を中止したため、2019年度は旅費の支出が予定よりも大幅に少なかった。2020年度においては、引き続き研究に必要な物品購入等に使用するほか、2019年度に予定していた調査内容を含めた海外出張を実施することを計画している。
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