2020 Fiscal Year Research-status Report
税務行政における多様化・柔軟化に対する法的統制に関する研究
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18K01242
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
吉村 政穂 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (70313054)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 租税法 / 国際課税 |
Outline of Annual Research Achievements |
税制の複雑化・国際的調和が進む中で、行政手法の多様化・柔軟化が喫緊の課題となっている。そこで、本研究では、租税法律主義を中核として税務行政の統制理論を構築してきた日本の租税法学は、こうした変化にどう応えていくべきかを研究目的としている。具体的には、行政手法の変化に対して、他国における先行事例(ベストプラクティス)を検討し、日本の法体系に適切に位置付けるための基盤的な議論を行うことを目標としている。 2020年度においても、昨年度から引き続き、一般的否認規定導入に関する議論を深めることに注力した。最近の裁判例の動向を受けた論点について、日本租税研究協会での講演を機に整理し、講演録という形でまとめたほか、最新判決の解説という形で、新しい問題領域が拓かれていることを示した。取引の不合理性を判断するにあたって、個別規定の趣旨・目的との関係で不自然性(個別規定が想定する実態との乖離)を判断するか、それとも税負担の衡平(parity)を判断するかという観点の設定によって違いが生じることを明らかにした。また、課税庁が一連の取引を切り取って経済的合理性を争うことに伴う課題についても、2021年度の研究に向けて導入的な検討を行った。 このほか、国際課税の見直しについてOECDでの議論が進んでいることを受けて、その改革論議が日本の租税法に与える影響についても研究を進めている。国際的な場で議論が進むことによって、これまでの日本の租税法体系とは異なった要素が持ち込まれる可能性が高い。このような状況において、どのようなガバナンスのあり方が望ましいのかを検討することが次の課題であり、従来の議論の整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ感染症の拡大により海外出張の予定が取りやめとなったが、日本の裁判例など他の素材を利用して研究を進めている。当初計画とは異なったテーマを取り扱うこととしているが、日本においても重要な裁判例がいくつか登場しており、否認規定に関する研究を深めることが重要であると判断した。国際課税の見直し論議を含め、将来の租税行政にとって大きな変化をもたらす論題であり2020年度における研究は研究課題の進捗に寄与するものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終段階にあり、2021年度においてはこれまでの研究の取りまとめに多くの時間を割く方針である。新型コロナ感染症の拡大によりり、海外での文献収集や意見交換といった予定は見直しを要するが、国内における研究会等での発表を活発に行うことで、アウトプットの品質を高めることを目指すことにしている。 また、感染対策時の支援方法をめぐる議論も、今後の租税行政のあり方に大きな変化を与えるものと予想される。2018年度に情報交換に関する研究を行っているが、デジタル化を受けた情報収集・処理の規律に関する議論にどういった影響があるか、時間の許す限り、改めて検証することを考えている。さらに、引き続き一般的否認規定における保護措置を中心に、新たな行政手法と納税者の権利保護について研究を深め、取りまとめを進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症拡大のため、海外出張の計画を変更し、国内での研究会開催等を実施することとしたため、未使用額が生じた。同様の研究会を引き続き次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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