2018 Fiscal Year Research-status Report
An analysis of Legal Countermeasures to Hate Speech
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18K01244
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
小谷 順子 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40359972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 憎悪表現 / ヘイト・スピーチ / 憲法 / 表現の自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018(平成30)年度は、憎悪表現をめぐる問題に関する憲法上の論点のうち、アメリカの判例にみられる「囚われの聴衆」に向けられた表現の規制を正当化する理論に焦点を当て、判例の分析を行った上で、2019年3月の研究会で報告を行った。この分析を通して、アメリカの判例上の「囚われの聴衆」理論が、公共交通の閉ざされた車内空間の保護に加えて、「自宅」という空間の静穏の保護に重点を置いて展開しており、他方で、公園や路上などの開かれた公共空間における言論行為については、ほぼ絶対的な自由の保障が強く要請されていることが改めて確認された。 同年度はまた、諸外国との比較研究を通して得た知見をふまえ、国外に向けて英語で研究成果の発信を行った。まず、日本の憎悪表現規制に関する法制度、判例及び学説の状況を整理した英語の論文(前年度刊行)に関し、韓国で開催された憲法の国際学会において口頭報告を行った(英語、後掲)。さらに、オーストラリアで開催された国際学会において、憎悪表現規制に関する日本の学説状況を分析した報告も行った(英語、後掲)。これらの学会報告及び質疑応答を通して、国際社会における日本の憎悪表現に関する憲法論の相対的位置づけを確認することができた。 同年度はさらに、歴史上で特定の人種等の被った被害を否定又は軽視する言論(例:ホロコーストの存在を否定する言論等)を規制する法制及び学説の国際的な展開を分析した欧州の研究者の論文と、南アフリカの憎悪表現規制の法制及び判例を分析した同国の研究者の論文につき、それぞれの概要を紹介する日本語の論考(後掲)も刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究計画として当初予定していた「囚われの聴衆」の法理論に関する分析については、ある程度実施した上で研究会で報告を行うことができたものの、当該テーマに関する日本語論文の刊行には至らなかった。他方で、当初の計画に明示はしていなかったが、憎悪表現及び歴史上の史実を否定する表現の規制につき、ヨーロッパ及び南アフリカ共和国の研究者による各々の法域に焦点を当てた研究論文を紹介した論考(日本語)を刊行することができた。 一方、国際社会に向けた英語による日本の憎悪表現規制に関する研究の情報発信については、2つの国際学会において報告を行うことができた。これらの過程で、上述のとおり、日本の議論状況を国際社会に向けて発信することができたほか、国際社会における日本の議論の客観的な位置づけを再確認することができ、さらに、国外の研究者との交流も深めることができた。これらのことをふまえ、「おおむね順調に進展している」と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、当初の交付申請書に記した研究実施計画に照らし、研究を進めていく予定である。同年度は、とくにアメリカの大学における、(1)ハラスメント防止に伴う憎悪表現規制及び(2)講演会などを通した論争的言論規制に関する判例及び学説状況の検証に取り組む。第一に、大学における学問ないし表現の自由に関する判例と文献を検証したうえで、個別の論点((1)及び(2))についての判例及び学説の検証を行う予定である。また、国際学会において、日本の大学における憎悪表現(ないし論争的表現)の規制をめぐる議論に関する分析状況を報告する予定である。さらに、国外の表現規制分野の研究者との交流を通して、国際共同研究の基礎作りを行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
一部の物品及び書籍につき、翌年度(平成31(令和元)年度)に購入することとしたため、当該年度の残額が発生した。
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