2018 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな政策決定に伴う議会制民主主義の空洞化に対する司法的統制の理論構築
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18K01247
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村西 良太 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (10452806)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法異議 / 選挙権 / 民衆訴訟 / 客観訴訟 / 主観訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツにおいては、公権力によって自己の憲法上の権利を侵害された(と考える)者には、その救済を求めて憲法裁判所に出訴する途が整備されている。「憲法異議」と称されるこの訴訟形式がいわゆる「主観訴訟」に該当することは疑いを容れず、連邦憲法裁判所法のコンメンタールや憲法異議の概説書も、そうした理解を前提に執筆されている。 ところが他方で、この憲法異議に(むろん主観訴訟の形式を保ちつつ)機能的には「民衆訴訟(客観訴訟)」の役割を期待しようとする向きがこのところ顕著になってきているように思われる。本年度のこれまでの研究によって、次の諸点が明確に整理できた。 第一に、かかる「客観訴訟」としての機能を帯びた憲法異議において公権力による侵害対象として主張されるのは、例外なく「選挙権」である。ドイツの基本法には、ドイツ連邦議会の議員を全国民の代表とする規定が置かれているところ(38条1項)、議会権限の後退はこうした「選挙権」の侵害に他ならない、との理屈が用いられている。 第二に、このような議会権限の後退は、例外なく政策決定のグローバル化の文脈において生じている。かかる「グローバル化」は近年顕著であるものの、ドイツ(あるいは欧州)においては必ずしも新しい転回ではない、すなわち「民衆訴訟」としての機能を帯びた憲法異議は、ドイツにおいては「最近の」事象というより、欧州経済共同体の展開に伴う数十年来の事象である。 第三に、しかしながら議会権限の後退を「選挙権」の侵害と同視し、もって憲法異議へと結実させる手法には、批判的な評価も少なくない。ただ、その詳細に関する調査・分析は、次年度(以降)に残された課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由は大きく分けて2つある。 第一に、購入を検討していたドイツ語書籍の刊行が予定より遅れたこと、第二に、夏季休暇を利用したドイツへの出張予定が先方との日程調整の不調により断念せざるを得なかったことにより、本研究の進度もやや緩やかになってしまった。 ただし、5年間の研究期間全体としてみれば、十分に挽回できる遅れだと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
政策決定のグローバル化に伴う議会権限の後退を「選挙権」の侵害と同視し、もって憲法異議の提起に結びつける論法に対して、具体的にどのような理論的批判が向けられてきたのか、その分析を本年度の課題としたい。この作業が夏までに順調に進展すれば、夏季休暇を利用してドイツへインタビュー取材に出かけたいと考えている。
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Causes of Carryover |
第一に、購入を予定していたドイツ語書籍の複数が年度内に刊行されず、次年度(以降)の刊行を待つことになった。 第二に、夏季休暇中に予定していたドイツへの出張が、訪問先との日程調整の不調により次年度(以降)への延期を余儀なくされた。
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