2020 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな政策決定に伴う議会制民主主義の空洞化に対する司法的統制の理論構築
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18K01247
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村西 良太 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (10452806)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民衆訴訟 / 主観訴訟 / 憲法異議 |
Outline of Annual Research Achievements |
政策決定のグローバル化が進展すると、国内議会を経由せずに重大な政策決定が下されたり、国際機関が国内議会による授権の枠を逸脱して活動したりすることによって、デモクラシーの深刻な空洞化が生じがちとなる。こうしたデモクラシーの空洞化に対して、裁判所による統制を強化することは、日本においては容易でないように思われる。日本の学説や判例を前提とするかぎり、必ずしも個人の主観的権利への侵害を伴わない事象について、裁判所に不服を申し立てる途はほとんど閉ざされているからである。こうした現状を再考に付することが本研究の中心的な課題であり、2020年度はそのための比較法研究として、ドイツ連邦憲法裁判所の判例に光を当てることとした。 2020年度の研究を通じて、次のことが明らかとなった。ドイツ連邦憲法裁判所は、EUへの統治権の委譲やEUの諸機関による権限踰越をめぐって、その法的統制を精力的に引き受けてきた。そのために活用されてきたのは、「憲法異議」と呼ばれる訴訟形式である。ドイツ連邦議会が枢要な権限を喪失すること、あるいはEUの諸機関がドイツ連邦議会によって承認された条約上の授権を踏み越えることに対して、ドイツの多数の市民がこれを「選挙権」の侵害として位置づけ、連邦憲法裁判所はかかる「選挙権」の救済という名目の下に、デモクラシーの維持ないし回復を志向してきた。もっとも、議会の権限喪失やEUの権限踰越をもって「選挙権」の侵害とする立論には、学説上の批判も根強い。選挙民なら誰でもデモクラシーの空洞化に抗することができるとなれば、ここでの「憲法異議」は実質的には「民衆訴訟」であって、諸個人の権利救済という本来の性質(日本でいうところの「主観訴訟」としての性質)を喪ってしまう、と考えられるからである。 以上の研究成果は、雑誌論文として公刊された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間のちょうど折り返し点にあたる3年目に、これまでの研究成果、すなわちドイツ連邦憲法裁判所における〈民衆訴訟としての憲法異議〉の展開とこれに対する学説の評価を総括し、雑誌論文として公刊することができた。このことから、本研究課題の遂行はおおむね順調に推移しているということができる。 他方、ドイツへ出向いての資料蒐集やインタビューは、ウイルス騒動の影響で実現できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツでの資料蒐集およびインタビューは、実現の見込みが立たないため、特にインタビューの実施はオンラインでの実施も検討されなければならない。 主観訴訟/客観訴訟の類別は、日本の用語方であって、ドイツにおいて用いられている概念ではない。ただ、憲法異議には「二重の機能」があり、主観的権利の保護が第一次的な機能でありつつも、客観的憲法の維持も第二次的な機能として含まれる、と説明されることが多い。この点は、本研究課題と密接に関わる事柄として、さらなる考究を要する。 あわせて、日本における主観訴訟/客観訴訟の類別は必ずしも歯切れがよいとはいえず、この点を批判的に検証する作業も不可欠である。
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Causes of Carryover |
理由は2つ。第一に、国外はおろか、国内の出張も、ウイルス騒動によってすべて中止されたため。第二に、購入予定であったドイツ語の一部書籍が、年度内の刊行に至らなかったため。 今後の使用計画は以下のとおり。出張は、可能であれば、ウイルス騒動の収束後に実現したい。インタビューはオンラインでの実施も検討したいが、いずれにせよ現地での資料蒐集は不可欠と考えている。ドイツ語書籍は、刊行されしだい、すみやかに購入したい。
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