2021 Fiscal Year Research-status Report
The Research of the Right to be no discrimination
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18K01253
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
木村 草太 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (50361457)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法 / 差別 / 平等 / プライバシー / 個人の自律 / 合理的配慮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、差別されない権利について古典的な論文を検討するとともに、統計的差別やプライバシー権と交錯する領域などについての先端的な判例や論文の分析を行った。 本年度の実績は、差別概念について、次のような知見を整理できたことである。差別は、人間の類型に向けられた否定的感情・蔑視感情と定義できる。この差別という態度は、複数の行動に現れる。 まず、第一に偏見の強化。偏見は、人間の類型に関する誤った事実認識と定義できる。感情や評価ではなく、事実認識である点で、差別と偏見は区別できる。ただし、差別は、偏見を強化する。これが差別の第一の表れである。第二に、差別は、相手の属性情報ー性別や人種、性的指向、出身地などーを利用して行われる。差別的扱いに同意する人などいないから、差別は必然的に個人情報コントロール権の侵害を伴う。第三に、差別は、自律的な行為を、統計により予期する方法で行われることがある。この場合、当人の自律的行為のはずのものが、当人の属性に内在する確率の発現と扱われる。さらに、第四に差別は合理的配慮の否定という形でも現れる。非常に容易に配慮できる事柄をあえて配慮しないのは、差別感情が背景にあるためである。 偏見、個人情報の無断利用、自律性否定判断、自律的行為の確率的判断は、いずれもそれ自体が問題だが、背景に差別があることが多い。差別は態度であり、その態度は、複数の種類のふるまいを帰結する。このため、差別概念は様々なものが混同しやすい。この点を解明し、論文にまとめた。また、こうした差別の問題を内在する様々な論点について研究を進め、判例を整理して分析する研究も行った。総じて、差別関係の判例や議論は、あまりにも複雑な問題を区分けせず議論するため、非常に混乱する傾向があることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は、おおむね順調に進展している。本研究は、差別の先端的問題を分析するため、差別概念を研究し深めることを対象としている。本年度は、差別概念の掘り下げとともに、差別に関する判例・裁判例を分析することを目標としていた。まず、差別概念の掘り下げについては、研究実績で示したように、狭い意味での差別論、平等論にとどまらないプライバシー権や個人の自律概念にも研究を広げることで、差別が、さまざまな隣接分野における現象を引き起こすことも判明させた。これは従来の差別研究の手法では見えにくかったものであり、差別概念の掘り下げという点で、十分な進展を見せるものといえる。 また、判例研究も十分に行えた。特に重要なのは、合理的配慮の観点からの夫婦別姓問題の分析である。夫婦別姓については、民法750条の解釈が問題となるが、これまで、民法750条の法的効果は十分に分析されてこなかった。この規定は、強行規定なのかどうかが問題となり、それが仮に任意規定なら、同氏合意を婚姻に要求することは過剰な要求となる。この点、通称使用が民法750条に違反しないとされていることから、この規定は任意規定の可能性があるが、民法学説も含めこれを掘り下げ検討しようとする研究はこれまでほとんどなかった。そこでこの点を掘り下げ、さらに婚姻要件論から別姓希望カップルに対する差別の現状とそれに対抗するための法律論を検討した。 判例研究は、これまでに検討されなかった論点を複数存在を明らかにしたうえで、それに対する十分な説明を展開した。これも狭い意味での差別への注目ではなく、広い視野で隣接分野の議論を研究したため展開できたブレイクスルーである。 こうした新たな知見を複数発見し提示できたため、本研究は順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、本年度で最終年度に入る。今後の研究としては、積み残しの課題となっている同性婚問題について判例研究を進め、理論・実務両面から研究を進める。同性婚問題については、いわゆる生殖関係説の分析を進めその背後にある差別概念を明らかにする手法が想定される。この手法は新しい手法であり、この方向で研究を推進すれば、重要な研究ができると見込まれる。さらに、ここまでの各論の積み重ね、総論的研究の蓄積を踏まえ、最終的に差別概念の概念史をまとめ、差別されない権利の全貌を示すための体系的な論文を執筆することが最終的な目標となる。差別されない権利は、差別者・傍観者・被害者の三者構造を前提に適切に適示する。 この研究を成就させるため、以下の通り研究を推進する方策である。まず、各論研究としては、本年度、続々と出る予定のセクシャルマイノリティ関係の判例、部落差別に関する判例を研究する。さらに、家族法と憲法の関係を分析し、家族の中における非嫡出子や女性といった弱い立場にいる人の権利をどう改善できたかを検討する。アメリカ法にも目を向け、複数の先端的判例を分析する。 それを踏まえて、各論の積み重ねから、重要な要素を抽出し、差別概念と差別の現れを示す。最終的な論文では、差別について、その概念とふるまい・現れを区別し、それぞれに定義する手法が想定される。その方向で研究を推進するには多数の工夫が必要だが、まず、これまでの差別に関する論文を、主観的感情と事実認識の区別、内心と振る舞いの区別、これを前提に差別を整理する。こうした作業の結果、これまで混同されてきた偏見と差別の区分や、主観と客観の区別につなげ、より精密な差別概念の掘り下げを行う。 こうして、研究を進め、各論研究、総論研究ともに高水準に論証ができるようになるように研究を推進する予定である。
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Research Products
(5 results)