2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01254
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
酒井 貴子 大阪府立大学, 経済学研究科, 教授 (40359782)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 一般否認規定 / 租税回避 / GAAR / FBT |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の初年度として、一般否認規定(GAAR)に関する研究を進めるため、これに関する基礎的文献の収集等のリサーチを行うとともに、一般否認規定の基本的課題の問題の検討を進めた。特に、課税要件規定及び個別否認規定の充実度と一般否認規定の関係において、オーストラリア法を参考に検討を進め、また、租税条約における一般否認規定ともいい得る主要目的テスト(PPT)の事例を探った。 課税要件規定及び個別否認規定の充実度と一般否認規定の関係においては、オーストラリアのFBT(フリンジベネフィット税)を取り上げ、その詳細な課税要件等があるにもかかわらず、一般否認規定も用意される点をみた。FBTにおいては租税回避が行われる可能性が低いと考えられ、一般否認規定の必要性はあまりないとされるもののそれが導入されている点は、我が国と大きく異なる点である。すなわち、我が国では租税回避が行われやすい所に分散的に一般的否認規定を立法しているのに対し、オーストラリアでは、租税回避の考えにくい分野等の税法においても一般否認規定を導入している。ときに、一般否認規定は、複雑な条文の簡素化に役に立つといわれるが、この分野ではそうではないといえる。なお、FBTの研究を進める中、詳細な課税要件規定のリサーチから、我が国のフリンジベネフィット課税との比較において、現行の交際費課税によりフリンジベネフィットに法人課税が及んでいる点に問題があることを指摘できた。 また、租税条約におけるPPTの適用事例を探ったがほとんど存在せず、近年においてルクセンブルグとカナダ間の条約での適用があるにすぎなかった。この点、国外の学会においても同様な認識であることを出席した国際的な学会で確認した。結果として、特に一般否認規定と条約上のPPTとの関係についての考察の材料となる事例の乏しいことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも示したが、収集した文献やデータ等をリサーチをする中、租税条約におけるPPTの適用事例を探ったがほとんど存在せず、近年においてルクセンブルグとカナダ間の条約での適用があるにすぎなかった。たとえば、オーストラリアにおいて、国内法における一般否認規定の適用が少なくないことに比して、租税条約上の一般否認規定たるPPTの適用例はほとんど見当たらなかった。その適用がはばかれる理由は定かではないままに、結果として、特に一般否認規定と条約上のPPTとの関係についての考察の材料が乏しいことが徐々に判明し、また、1月の国際的な学会の出席で最終見極めを行ったため、研究テーマの範囲内での方向転換の検討が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後においては、研究テーマの範囲内での方向転換の方向性として次の事柄について検討を進める。 第一に、諸外国における一般否認規定の研究、特に、その導入時の議論に注目したい。同時に、周辺の手続的規定として必要と考えられた制度としていかなるものがあるか、例えば、イギリスの情報申告制度や、オーストラリアやカナダにおける一般否認規定の適用に当たってのPANELの制度の内容と、それに係る執行上の問題を検討することとしたい。 第二に、租税回避への対処策としての一般否認規定の有効性や実効性だけでなく、法の支配との関係における基本的な問題点の検討を進めていく。一般否認規定の立法は、日本では多くの反対があるが、多くの国が一般否認規定を定めている中、それらの国で、法の支配との関係において、どのような議論があったのかを探る。 第三に、アメリカ法における一般否認規定ともいえる内国歳入法典269条の一適用要件が、多くの国のGAARにみられる目的テストを有していることから、この裁判例を検討し、どのような議論、問題点があったかを確認し、検討を行う。
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Causes of Carryover |
今年度分から次年度使用額が生じたのは、購入予定であった書籍について、旧版を有しており、最新の資料を確認できるデータベースの利用から、研究テーマに関わる箇所について大きな変更も考えられず、また、研究報告を済ませていたこと、それから、若干購入価格の上昇もあったことから、新版の購入を差し控え、翌年度に最新版の購入を予定することとした。次年度使用額は、また新しく出版される(であろう)最新版の購入費用に当てることとしたい。
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