2019 Fiscal Year Research-status Report
多様化する「家族」に憲法学はどのように向き合うか‐公私二分論批判、婚姻の自由
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18K01259
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
田代 亜紀 専修大学, 法務研究科, 教授 (20447270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 家族と憲法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、本研究課題の2年目で、引き続き、憲法学における家族の位置づけについて、日米の憲法学やジェンダー、家族に関する議論を参照した。研究課題遂行の大部分は、文献読解や資料参照によるもので、次年度にはこの研究成果を論文としてまとめたいと考えている。 自身による文献読解以外に、本研究課題を遂行すべく、今年度も研究会などに積極的に参加した。例えば、「憲法とジェンダー」研究会(於専修大学)を8月と2月に行うことができ、パリ在住の憲法研究者や女性学研究者や日本全国からの研究者と議論することができた。そこでは、憲法学のみならず法学において、どのようなジェンダーの問題があるかやジェンダーを法学の文脈で問うことの意味や意義などを活発に議論し、本研究課題の問題意識を深めることができた。また、ジェンダー法学会主催の講演会「日本の法学教育・法科大学院教育におけるジェンダーと法:予備的検討とコメント」(ハワイ大学教授Mark Levin氏、12月17日、於早稲田大学)にも参加し、連邦最高裁における女性裁判官の存在がアメリカ社会やアメリカ法学会にどのような影響を与えているかについて、意見交換をすることもできた。このほか、8月には短期間ながら米国ワシントンに出張し、現地で「家族」や女性の権利についての歴史的経緯(参政権獲得までの女性運動など)などを調査した。 以上、本研究課題が抱える論点、すなわち性別役割分業や公私二分に由来する「家族」問題における女性の権利の侵害状況とそれに対応する議論や多様なジェンダー理解に基づく新たな「家族」についての議論、そして以上のような議論に憲法学としてどのようにアプローチしていくかについて、文献購読と研究会等や外国出張などを通して、取り組んだのが今年度の研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文としては公刊できていないものの、1年間を通して、憲法学における家族の位置づけという本研究課題に文献読解と研究会活動や外国出張で取組み、内部的な蓄積はできているのではないかと考えるからである。 文献購読は、昨年度からの課題であるリンダ・マクレーン(Linda Mcclain)というアメリカの家族法学者の議論を中心に、アメリカにおける「家族」の議論、フェミニズムの議論、日本においてそれらと同様の問題関心を持っていると思われる論文などを対象として行ってきた。 こうした文献読解を通して、多様な「家族」が形成されつつある現在の状況に、従来からの理論的課題(性別役割分業や公私二分論の克服)を抱えながら、どのようにアプローチすべきかを検討している。すなわち、一方で同性婚が法的に認められる流れがあり(米)、他方で性別役割分業などに由来するジェンダーの不平等が社会に残存しており、「家族」内の不正義が「家族」外の不正義につながるという問題状況がある。こうした「家族」についての問題群があるなかで、憲法学や法学がどのように「家族」を構想するのかを検討している。 現在は、こうした研究を踏まえて、日本の家族に関する憲法判例の演習書の一端を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のような文献読解をしながら、現在も憲法学における「家族」の位置づけの検討を続けている。引き続き、フェミニズムやジェンダー平等に関する議論や「家族」に関する日米の憲法学の議論の文献読解を進めて、本研究課題に取り組んでいきたい。 現実の社会において、「家族」は同性婚の社会的認容など多様化を続けているが、他方で、憲法学や法学で「家族」をどのように規定するかや従来からの「家族」に関する理論的課題(性別役割分業といった「家族」内の不正義をどのように克服するか)は未解決である。この両者をどのようにすり合わせ考えていくべきかの検討を続けていく。 前者の「家族」の多様化については、アメリカでは同性婚について憲法上の権利性が認められているが、日本においてはそうした段階にないことから、現在、訴訟継続中の同性婚訴訟についても注目していく。 後者の「家族」内の不正義が「家族」外すなわち社会の不正義に続いている点については、性別役割分業や公私二分論、日本においては「家」制度の克服という点に関わる。こうした論点を、引き続き日米のフェミニズム議論を基に検討していく。場合によっては、社会学や民法学といった周辺領域の知見も併せて検討する必要を感じている。現在、世界的かつ学問横断的にジェンダーの平等が論じられている(韓国やヨーロッパにおけるジェンダー関連文学・書籍の注目など)。そうした流れも視野にいれておきたい。
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