2020 Fiscal Year Research-status Report
多様化する「家族」に憲法学はどのように向き合うか‐公私二分論批判、婚姻の自由
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18K01259
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
田代 亜紀 専修大学, 法務研究科, 教授 (20447270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 憲法24条 / 家族 / 同性婚 / 夫婦同氏制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度も引き続き、日本とアメリカの憲法学や家族法を研究対象として、主に文献の読み込みに取り組んだ。取組の中で、本研究課題の研究計画の中心に挙げていたリンダ・マクレーン(Linda C. McClain)の近著である『WHO’S THE BIGOT? LEARNING FROM CONFLICTS OVER MARRIAGE AND CIVIL RIGHTS LAW 』に接することもできた。 そして、彼女の議論を参照しながら、「家族」に関する価値観や政治的信条が複数存在するときに、どのように憲法論を展開すべきか、また法的な制度設計はどのように行うべきかという点と、「家族」・「婚姻」についての憲法論について考える論文を執筆し、脱稿した。 同論文では、日本の夫婦同氏制度やアメリカ、日本における同性婚論争を具体的な素材として扱い、理論的な分析も行った。夫婦同氏制度は、現在も複数の訴訟が継続しており、同性婚訴訟についても現在、日本の各地において複数の訴訟が進行中である。そうした、まさに現在進行形で問題となっていることがらに、憲法理論がどのように影響を与えるべきかを考えながら、研究を進めた。 論文の方向性は、民法750条が定める夫婦同氏制度は憲法違反といえるのではないか、同性婚についてもそれを認めないのは違憲になるのではないかというものだが、なぜそのように言えるのかという理論的根拠に重点を置いて、研究活動を行った。 婚姻制度や家族について、憲法上どのように考えるべきかという大きな問に向かって、次年度の研究も進めたい。 また、学生向けの参考書(憲法学)で家族について執筆する機会も得て、同稿は6月末に出版される予定である(現在は、校正段階)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一番大きな理由は、本課題で研究対象としている文献のうち、中心的存在であるリンダ・マクレーンの近著を読んで、家族についての他の論点や議論とともに、論文としてまとめることができたからである。この研究成果を得られたことは、本年度の大きな進捗であると評価できるように思われる。 リンダ・マクレーンの近著は、アメリカ合衆国の同性婚論争の中で家族観に大きな対立がある状況下(婚姻は一対の男女に限られるか否か)で、憲法論として婚姻をどのように考えるべきかというテーマに取り組むものであった。アメリカ合衆国においては、婚姻を一対の男女に限ること、または同性婚への抵抗はキリスト教的な価値観が大きく影響しており、この点は日本の状況と異なる。しかし、日本においても同性婚や夫婦同氏制度といった憲法上の論点に、伝統的、保守的な家族観や「家制度」の残滓が対抗的に現れている。そのように、家族についての憲法論や憲法解釈に社会における価値観や倫理観、宗教観、家族観が対峙する場合、どのように考えるべきか、という難問は日米で共通する。そこで、リンダ・マクレーンの近著からアイデアを得つつ、日米における同性婚を素材として、家族についての現在的論点についての憲法解釈を考え、論文としてまとめた。 同論文においては、家族制度それ自体の問題も検討した。同性婚や夫婦同氏制度が現在の社会においても問題となっているという意味で、今まさに目の前にある論点であるとしたら、家族制度それ自体の問題性はその延長線上にある応用的な論点である。そうしたことも含めて検討し、研究課題に今後取り組む指針を得た。 また、上記論文は研究課題に直結する成果であるが、学生向けの参考書に本研究課題の対象である「家族」について担当することができ、本研究課題を間接的な形でも還元することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、日本とアメリカを対象として、家族や婚姻についての憲法学の議論に取り組む予定である。日本における同性婚の問題については、研究成果を還元できる方法を検討している。具体的には、現在訴訟が継続している同性婚訴訟の弁護団と意見交換を行うなど、実務と憲法論との接合を考えている。アメリカにおける同性婚の問題についても、文献調査をしながら、その後の社会の変化も含めて、検討したい。 理論的な課題としては、家族制度それ自体の問題性を法哲学や性的マイノリティの議論も含めたうえでより検討し、その問題性を踏まえた上で、憲法解釈をどのように構築するかを考えたい。 そうした論点の1つとして、家族内のケア問題を憲法解釈としてどのように考えるべきかという論点がある。ケアの担い手は、家族内の女性に偏る傾向があるが、それは性別役割分業といった家族内の不正義の問題にもつながる。家族内の不正義が、家族の外である社会にまで連続していることは長らく言及されているものの、問題は膠着し続けている。この点については、フェミニズムの議論や日米の憲法学、社会学、法哲学の議論を参照して更に検討したい。 他方で、子どもを主としてケアが必要な存在にどのようにケアを確保するかということは家族の機能としても重要なことである。ケアの担い手やそうしたケアを担う家族に公的な介入はどのようになされるべきかについても考えたい。この点については、民法学や社会学を参照する予定である。 婚姻制度は、法や制度を通して、人々に「正統な」婚姻という規範を示している。その「正統」に苦しむ人々がいることを、同性婚訴訟は示している。翻って、法や制度設計をする上で、一定の線引きが必要なことも確かである。現在の線引きを疑いながらも、どのような制度設計が社会を映し出す上で妥当なのか、そこに憲法解釈はどのような役割を果たすかということを考えていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナ禍のため外国出張、国内出張をともに取りやめたため、旅費の使用がなくなった。そのために使用額に変更が生じてしまった。 次年度もコロナ禍で引き続き、出張は難しい状況にあるかもしれないが、可能であれば実行したい。もし、出張が難しいようであれば、研究課題を遂行するうえで、出張に代わる研究手段や研究方法を考えて、予算を執行していきたい。
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