2018 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける国民主権原理と国籍法制の史的展開―共和主義と帰化および二重国籍―
Project/Area Number |
18K01261
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
菅原 真 南山大学, 法学部, 教授 (30451503)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 重国籍 / フランス / 国民主権原理 / 国籍法 / 共和主義 / 帰化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、フランス国籍法制上、二重国籍を容認した時期および理由について解明すべく研究を行なった。本研究の目的は、「革命期から現代までのフランスの国籍法の変化を明らかにしながら、重国籍および帰化者の政治的権利の法的展開を、憲法学の観点から理論的・実証的に解明すること」にあり、そのために、初年度である本年度は、「フランスの国籍法制の展開についての研究」を行なった。 フランスは、1963年「重国籍の場合の減少及び重国籍の場合の兵役義務に関する条約」を批准するなど、第二次世界大戦後においても「国籍唯一の原則」という古典的な国際法上の考え方を維持しているようにも考えられる。しかしフランスの研究者によれば、実際には「二重国籍(binationalite ou double nationalite)」は伝統的に容認されてきた」(P・ヴェイユ)ことは周知の事実である。 フランス国籍法制の展開において、1927年8月10日の法律(国籍法)は重国籍を容認する内容であった。この法律は、1913年7月22日ドイツ帝国国籍法(Loi Dellbruck)の影響を見ることができる。1913年ドイツ帝国国籍法25条は、外国に帰化したドイツ人が自国の国籍を保持することを認める内容であった。フランスが重国籍を容認した背景としては、世界大戦後の人口減に対応する「新しい市民の必要性」、「人口学的必要性(demographic imperative)」の観点が重視されたことを挙げることができ、フランスに十分に同化している者はフランス人になるべきだとするプラグマティックな対応がなされてきた。 現代においては、1997年ヨーロッパ国籍条約が採択されるに至り、批准国および欧州人権条約加盟国においては、重国籍者の権利保障は人権裁判所の判例上も確立されているということができる(2010年4月27日「タナセ判決」)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「フランスの国籍法制の展開についての研究」を進めてきたが、それを論文として公刊することができなかったことが「進捗がやや遅れている」とした理由である。 革命初期は憲法典に「国籍法典」が挿入され、そこでは血統主義と居住地主義を併存させていた(1791年)。その後、1804年ナポレオン民法典は、国籍取得にあたり血統主義を採用していたが、1851年2月7日法では出生地主義の要素が強化され(二重出生地主義の採用)、1889年6月26日国籍法において二重出生地主義が確立されるに至る。1927年8月10日国籍法では「帰化」の容易化が図られた。 本研究との関係で言えば、この1927年法こそ重国籍を容認した重要な法律である。ドイツ国籍法の影響とともに、第一次世界大戦で140万人の死者を出したために、同法は人口増加を目的に制定された。同法は、1889年国籍法の問題点とされた「帰化による国籍取得」に際して必要な義務的居住期間を従前の10年から3年に削減し、フランス国籍の取得を容易にした。その結果、1926年の帰化者数は4万5千人だったのが、1927年に8万6千人、1928年に7万1千人になった。1927年1月1日から1940年12月31日までの間に成人で帰化した者は318,416人、未成年者を含めて合計51万人が帰化したとされる。 その後、ビシー政権下の法律を経て、第二次大戦後の1945年10月19日のオルドナンス(国籍法)、1973年1月9日の法律(国籍法改正)、1993年7月22日の国籍改革法なども、フランス政治とフランス国籍法制史の上で重要なものである。 いずれにせよ、2019年度の早い時期に、上記の国籍法制史について、フランスが重国籍の容認に至ったことについての詳細な分析を行うとともに、重国籍者と政治的権利の関係についての検討を行なった論稿を完成させ、公刊する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、本研究の二年目である本年度は、「フランスの帰化法制と帰化者の政治的権利についての研究」を実施する。特にこのテーマについては、日本国内において入手可能な文献を収集するとともに、フランスでの研究調査を実施し、パリ大学法学部のクジャス図書館で文献収集をおこない(ここに所蔵されているテーゼのいくつかは未公刊であり、フランス現地でのみ入手可能である)、また、フランスの憲法研究者から専門的知識の提供を受け、研究を進める。 研究代表者は自身の博士論文の一部分において、既にフランスにおける外国人の公務就任権については一定の研究を行なっており、そこで、帰化者の公務就任権については極めて差別的な要件を維持し続けてきたことを明らかにしている。しかし、そこではフランスの各時代の国籍法典の「帰化」条項について詳細な検討を行ってはおらず、また、ビシー政権下の諸法律については未検討であった。 そこで、本年度は、昨年度実施した「フランスの国籍法制の展開と重国籍の容認」についての研究成果を公表するとともに、その成果を踏まえて明らかにしたフランスの帰化の史的展開について、ビシー体制下の国籍法制を含めて明らかにし、また帰化者の政治的権利の具体的状況についても解明したい。その研究成果は、紀要『南山法学』において公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
2019年3月下旬にフランスに調査・文献収集をおこなった。その際、パリおよびリヨンで研究者と会い、専門的知識を提供してもらうとともに、現地で多くの図書を購入し、またパリ大学法学部クセジュ図書館で文献コピーを行なったのであるが、その費用について私費で立替えた分についての請求が、年度をまたいでしまったため。 本年度の使用額にその金額は計上する。
|
Research Products
(3 results)