2019 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける国民主権原理と国籍法制の史的展開―共和主義と帰化および二重国籍―
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18K01261
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
菅原 真 南山大学, 法学部, 教授 (30451503)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 重国籍 / フランス / 国民主権原理 / 国籍法 / 共和主義 / 帰化 / フランス憲法 / 参政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の二年目である本年度は、①フランスの国籍法制の展開を再度確認した上で、②「フランスの帰化法制と帰化者の政治的権利についての研究」を実施した。日本国内において入手可能な文献を収集するとともに、フランスでの研究調査を実施し、パリ大学法学部のクジャス図書館で文献収集をおこない、またフランスの憲法研究者から専門的知識の提供を受け、研究を進めた。但し、クジャス図書館で複写した文献や購入した書籍を、パリ市内の郵便局の段ボール便で郵送したところ、複写文献や一部書籍が抜き取られて届くという問題が生じ、フランスで未刊行の博士論文の収集については再度試みる必要がある。 ①については、パトリック・ヴェイユ『フランス人とは何か』(明石書店)が宮島喬教授らの手により邦訳・刊行された。フランスの国籍法制を研究テーマとしている本研究にとっても極めて重要な文献であることから協力させていただき、2019年7月開催の刊行記念シンポジウムでも講演する機会をいただいた。ヴェイユの同書は②についても重要な事実を提供しており、特にヴィシー体制下の国籍政策、特に帰化再審査委員会の活動の実態を明らかにしている。ヴィシー政権下では、1万154件の帰化の取消し、446件のフランス国籍剥奪、11万人のアルジェリア・ユダヤ人の市民から臣民への降格が行なわれた。「フランス解放」後の第四共和制においても、帰化者の政治的無能力の期間(5年)は残存した。それは、戦前の立法における10年から縮小し、またヴィシー体制下で外国出自のフランス人を排除してきた諸法律から比べれば前進したとはいえるが、同じフランス国民でありながら、生まれながらのフランス人にはしない帰化者の「一時的な政治的無能力の原則」が完全に廃止されるためには、1970年代まで待たなければならないことが、本研究を通して明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「遅れている」と評価した理由は、(A)「フランスの国籍法制の展開についての研究」(2018年度)についても(B)「フランスの帰化法制と帰化者の政治的権利についての研究」(2019年度)についても、一定範囲で研究を進めてきたものの、それらを論文として公刊することができなかったからである。この二年間、学長補佐としての諸業務が多忙であったことは事実であるが、それを研究課題が進展しなかった理由にすることはできない。 昨年度の研究についていえば、(A)については、ヴェイユの著書を通して、フランスの国籍法制は歴史的に3つの段階を経て変遷していったとまとめるべきであることが明らかになった。すなわち、①その第一段階は、父系血統主義による国籍取得を原則とした1803年民法典の制定であり、血統主義の原則は、その後欧州やアジア諸国でも採用されていくことになる。②第二段階は、血統主義の原則に加え、生地主義のアプローチも取り入れた1889年国籍法の制定である。兵員不足を解消するため、フランスで生まれた外国人は、親がフランスで出生していた場合に自動的にフランス国籍を付与されること(加重生地主義)が定められ、ここに「生地主義の共和国的用法」が創始された。③第三段階は、第一次世界大戦後の人口減少への対策として、フランス国籍を欲する多数の移民に対し、帰化またはフランス人との婚姻を通して国籍を付与することを認めた1927年国籍法の制定である。本研究の「重国籍」という観点からは、この1927年法が重要であり「伝統的にフランスは重国籍を認めてきた」とする法的根拠の出発点はここにあるということができる。 また、(B)の帰化者の政治的権利については、「解放」後の1945年国籍法においても、国籍の同化主義的アプローチの影響の下、帰化者の一次的無能力は「同化の見習い期間」との位置づけを与えられていたことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、本研究の最終年度である本年度は、(C)「フランスの重国籍をめぐる法制の変化と重国籍者の政治的権利についての研究」を実施する。第一次世界大戦後の1927年国籍法によって認められるようになった重国籍の意義と問題点、「国籍唯一の原則」との矛盾、現代の重国籍をめぐる現在の法制とその動向(国籍剥奪を含む)を文献研究に基づき解明した上で、フランスを訪問し、現地の大学教授らから専門的知見を得て、日本における「蓮舫問題」や国籍法11条違憲訴訟とも比較検討を行いながら、フランスにおける重国籍者の参政権についての考察をまとめ、その研究成果を紀要『南山法学』に年度内に掲載する。 また、(A)2018年度に実施した「フランスの国籍法制の展開についての研究」および(B)2019年度に実施した「フランスの帰化法制と帰化者の政治的権利についての研究」を通して得られた成果を含め、それらを総合的にまとめ、関連学会の公募論文/公募報告に応募するとともに、成果の発表をおこなう。さらに、それらの研究成果をまとめ、南山大学学術叢書(単著)として発行できるようにその準備を進めていく。 なお、2020年度秋学期から一年間、学内の留学制度を活用する予定であり、国内またはフランスにおいて、研究に専念できる予定である(但し、新型コロナウィルス感染症が全世界的に拡大している中で、2020年5月の現時点においては、当初の予定通りにいかなくなったため、再考が必要となっている)。
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Causes of Carryover |
2019年3月にフランスへの研究調査を予定し、旅費の一部として使用する予定であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大により、渡航自粛が促され、執行できなかったため、次年度使用額が生じた。 2020年度に計画しているフランスへの研究調査時に、旅費の一部として充てる予定である。
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Research Products
(2 results)